特ダネ記者魂

2009年09月29日

口塞ぎは頓珍漢/直言する役人こそ政治主導に必要だ

[田岡俊次の特ダネ記者魂]


20年程前、若い官僚が「役所には秘密の憲法の読みかえ規程がありまして」と私に言ったことがある。「第41条の『国会は国権の最高機関であって』とあるのは『事務次官会議は』と読みかえるものとする。第15条に『すべて公務員は全体の奉仕者であって』とあるのは『すべて国民は公務員全体の奉仕者であって』と読みかえる、ことになっているんです」という巧みな冗談だ。

官僚が国政を牛耳り、自分達に好都合な決定をしている実態の滑稽さを彼らも自覚はしていたのだ。表面上は国会や大臣の顔を立てながら官僚がそれを操る仕組みは、植民地で原住民を名目上の要職に就け、本国から派遣された秘書官らが背後で指導したのに似ていた。9月14日を最後に、裏の最高機関だった事務次官会議が廃止されたことは、日本が「政治的開発途上国」状態から脱却したことを意味するものと言えよう。

だが、事務次官らの記者会見まで禁止したのは頓珍漢だ。官僚は与党の政治主導に抵抗する際にも、公然と記者会見で反旗を翻すほど大胆不敵ではない。業界団体や自治体に手を回したり、親しい記者に懐疑論をもらしたりするもので、会見を禁止しても意味がない。また政治主導が常に正しいとも限らない。東京都知事が大手銀行にだけ外形標準課税で高い税金を課そうとした際には、都庁幹部の中にも「無理ではないか」の声があったが、強行して一、二審で敗訴、税金の大部分に利息をつけて返すことで和解した。米国のイラク攻撃も陸軍首脳の慎重論を押し切って政治家が決めたものだ。

自動車や飛行機に警報灯があるように、政治・行政にも早めに問題点を示す機構が必要だ。メディアもその一つだが、実務を担当し実情や経緯、法令を熟知する公務員が政治家に対して遠慮なく物を言える雰囲気や仕組みも大切だ。既得権の維持や組織防衛を狙った説も交じるだろうが、明敏な政治家は、ためにする論と合理的な批判を区別できるはずだ。率直な諫言をする役人を重用し、やたらに追従する者を遠ざけるのは古来名君の条件だった。警報装置の音をうるさがり、スイッチを切って飛ぶようでは民主党政権も墜落しかねない。

官僚 , 政治 , 田岡俊次 , 行政

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