特ダネ記者魂

2010年06月01日

タイの争乱は似た矛盾抱える中国の近未来

[山田厚史の特ダネ記者魂]

 微笑みの国タイが「まさかの事態」になった。2000年から3年ほど駐在したが「ふらふらしながら上手にバランスを取る国」という印象だった。市場経済が早くから根付き、バンコクは暮らしやすい都市として人気だった。しかし今回の事態を深刻に受け止めているのは北京ではないか。タイの社会構造は中国が抱える矛盾と微妙に重なり合っている。

 争乱のキーワードは「時代に取り残された農民の怨念」。国際都市バンコクを底辺で支えるのは農村からやって来た人々だ。コメは世界一の輸出国だが、農業では暮らせない。子供を学校にやるにも現金が必要だ。一家の柱は都市に出て働く。仕事は建設現場やレストランなどの下働き。トタン屋根で雨をしのぐスラムがバンコクに1万カ所を超える。彼らは、中国で「農民工」と呼ばれる人たちと同様、差別された「二級市民」である。

 都市には中間層と呼ばれる人たちが増えている。教育を受け先進国並みの生活を求める人たち。政治的関心は高く、腐敗に敏感だ。

 この二つの勢力がぶつかった。「タイ社会の遅れ」を嫌悪する都市生活者は利権政治のタクシン元首相に反発する一方で貧しい農民に冷淡だった。反政府の貧民は、1年分の収入でも買えないドレスやバッグがこれ見よがしに並ぶ商業施設に火を放った。住み慣れた農村への郷愁、ままならぬ拝金主義。農民は都市に肩入れする政権に怒りをぶつけた。

 調停役の国王は動けない。黄門様の印籠のような「王様の徳」で治まる世の中ではなくなった。世継ぎを巡る王室内部の争いが、王政の賞味期限切れを印象付けた。

 対立は軍に波及している。狙撃され死んだ反政府指導者の一人は現役少将だった。国王の側近は有力な軍OB。王室は軍幹部の再就職先となり、王室利権と軍の派閥が微妙に絡む。軍も一枚岩ではない。

 中国はどうなのか。農民・農業が最大の不安要因だ。農村はマネー経済に馴染まない。都市には拝金主義がはびこる。農村から都市への流入が止まらない。国家主席の任期は5年。胡錦濤(フーチンタオ)は2013年に改選期を迎える。後継をめぐる争いはないのか。共産党の後ろ盾となる軍は一枚岩なのか。

 過熱経済が失速した時、成長のベールに隠されていた矛盾が噴出する。「一党独裁」の賞味期限も切れかかっている。都市で農村で軍で、何が起こるのか。中国はタイからどんな教訓を読み取るだろうか。

タイ , タクシン元首相 , 争乱 , 拝金主義 , 胡錦濤(フーチンタオ)

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