スイートテン
2月20日は結婚記念日だ。今年、10年目。さっきオットに「スイートテンダイヤモンドを知っているか?」と訊いてみたら、「知ってる」と答えていた。
たぶん、「知ってる」だけだと思うが、もしかしたらということがあるので、今回はオットを誉めちぎりたい。
かれは、とても真面目で、礼儀正しく、そして生活様式が非常に安定している。
起床するのは、出かける2時間前だ。自分でセットしておいた目覚まし時計が鳴るか鳴らないかでむっくりと起きる。
寝室から居間に移動する途中で朝刊を抜き、お風呂を入れる。浴槽にお湯がたまるまで、朝刊を読みながら、野菜ジュースと緑茶飲料をのむ。ゆっくりとお風呂につかったら、ひととき放心するのがいつものコースだ。
わたしが台所に立っていたら、「おはようございます」と挨拶をする。わたしが仕事をしていたり、眠っていたら、ひとりでパンを焼いてたべ、牛乳をのむ。その後、手洗いで用を足す。歯をみがいて、ひげをそり、着替えて出勤する。
オットの持ち物は、ノートパソコンとセカンドバッグだ。そう、セカンドバッグ。絶対、セカンドバッグ。黒いやつだ。何代目になるだろう。知り合ったときから、かれはセカンドバッグ派であった。まだ学生だったのに。
なにが入っているのかはよく分からない。でもパンパンにふくらんでいる。財布と手帳と携帯が入っているのはたしかだ。それらを出し入れするさまなら、何度か目撃している。
ただし、携帯はほんとうに出し入れするだけだ。前回も書いたが、オットは携帯の電源すら入れない。ただただ携帯しているだけだ。かれがわたしの前で自主的に携帯を出し入れするのは1年に一度充電するときと、昨年機種変更したときのみだ。
ひょっとして使えないのでは? そんな疑惑が湧くのも当然だろう。わたしも訊いたことがある。メールは打てないが(打つ気もないようだけど)、電話をかけたり取ったりするのはできるようだ。得意気に留守番メッセージも聞けると答えた(聞かないけどね)。 「行ってきます」と出かけたオットは「ただいま」と帰ってくる。「ただいま」の代わりに「帰ってきましたよ」ということもある。「帰ってきちゃった」の場合もごくたまにだがある。前者は遅くなったときで、後者はかなり早い帰宅のときだ。
帰ってきてまずすることが、うがいと手洗い。それからTシャツとスウェットパンツに着替える。かれは、室内では、通年Tシャツなのだ。
ほんの数年前まで、オットにとってTシャツは、旅行先にて自分で買うか、だれかにもらうかのちがいこそあれ、基本的に「お土産」だった。わたしがショップで購入してきたものを見て、カルチャーショックを受けたようだ。
「......かっちょいいね」とつぶやいたオットの複雑な表情は忘れられない。たいそう嬉しそうに「ありがとう、ありがとう、かすみさん」といいながら、「でも、ぼくにはどうかなあ」ともじもじしていた。そこでわたしは「大丈夫だよ、すごく恰好いいよ」とはげました。
以降、オットは、毎年夏になると、「かっちょいいのを見繕ってきてください」とわたしに買い物の指示を出すまでに成長した。しかし、家のなかでヘビロテしているのはお土産Tシャツだ。ショップで購入したものは、よそゆきとして大事にしまってある。
ちなみにオットは外出するとき(めったにないけど)、襟のあるシャツにデニムを合わせる。春秋は綿のカーディガンを羽織り、冬は毛のカーディガンを羽織る。若干畏まった席ではカーディガンが紺のジャケットに変わる。これがオット・スタイルだ。だから、Tシャツのよそゆきというのは、暖かい国に旅行に出かけるときのためのものである。
いずれにしても、おしゃれの総仕上げとして持つのはセカンドバッグだ。なんというか、振り出しに戻るという感じがする。さりげなくちがうカバンを勧めても「そうねえ」というばかりで、山は動かない。
こうなったら、オットにはずうっとセカンドバッグを持っていてもらいたいとわたしは思う。
二代目のセカンドバッグはわたしがプレゼントしたものだった。あちこち擦り切れたのを使っていたから、見るに見かねたのだ。
オットはとても物持ちがいい。たいへん丁寧に扱うので、かれが持てば、ものの寿命が延びるのだった。愛着の度合いが深まるらしく、傍目には惨めに映っても手放しがたいようである。オットの愛用品との別れはわりと哀切だ。からだのどこかをつねられたような、痛そうな顔をする。だから、わたしはかれのものを勝手に捨てることができない。それがたとえどんなにみすぼらしいものであったとしても。
オットの特徴は、アイテムを換えない点だ。一度手に入れたアイテムを、かれは手放したがらない。かれの持ち物はすべて定番となる。使わなくても携帯は今後も持ちつづけるだろうし、セカンドバッグも同様だろう。そうして、かれは同じ行動様式で日を送るのだ。週末に爪を切りつづけ、4週間に一度、散髪に行きつづけるであろう。
だからこそ、わたしはかれの奥さんでいられるんだろうなあ、と思う。わたしたちがうまくいっているのは、ひとえにオットの物持ちのよさのおかげなのかもしれない。
機嫌よく毎日を暮らせたらそれがいちばん仕合わせだ。じつのところ、ダイヤモンドはそんなに欲しくない。どちらかというと、シャワートイレの買い替えのほうが急務だ。あと、壁紙の張り替えとか。いっそのこと、スイートテンリフォームというのはどうだろう。すごくフレッシュな気分になれると思うのだが。
たぶん、「知ってる」だけだと思うが、もしかしたらということがあるので、今回はオットを誉めちぎりたい。
かれは、とても真面目で、礼儀正しく、そして生活様式が非常に安定している。
起床するのは、出かける2時間前だ。自分でセットしておいた目覚まし時計が鳴るか鳴らないかでむっくりと起きる。
寝室から居間に移動する途中で朝刊を抜き、お風呂を入れる。浴槽にお湯がたまるまで、朝刊を読みながら、野菜ジュースと緑茶飲料をのむ。ゆっくりとお風呂につかったら、ひととき放心するのがいつものコースだ。
わたしが台所に立っていたら、「おはようございます」と挨拶をする。わたしが仕事をしていたり、眠っていたら、ひとりでパンを焼いてたべ、牛乳をのむ。その後、手洗いで用を足す。歯をみがいて、ひげをそり、着替えて出勤する。
オットの持ち物は、ノートパソコンとセカンドバッグだ。そう、セカンドバッグ。絶対、セカンドバッグ。黒いやつだ。何代目になるだろう。知り合ったときから、かれはセカンドバッグ派であった。まだ学生だったのに。
なにが入っているのかはよく分からない。でもパンパンにふくらんでいる。財布と手帳と携帯が入っているのはたしかだ。それらを出し入れするさまなら、何度か目撃している。
ただし、携帯はほんとうに出し入れするだけだ。前回も書いたが、オットは携帯の電源すら入れない。ただただ携帯しているだけだ。かれがわたしの前で自主的に携帯を出し入れするのは1年に一度充電するときと、昨年機種変更したときのみだ。
ひょっとして使えないのでは? そんな疑惑が湧くのも当然だろう。わたしも訊いたことがある。メールは打てないが(打つ気もないようだけど)、電話をかけたり取ったりするのはできるようだ。得意気に留守番メッセージも聞けると答えた(聞かないけどね)。 「行ってきます」と出かけたオットは「ただいま」と帰ってくる。「ただいま」の代わりに「帰ってきましたよ」ということもある。「帰ってきちゃった」の場合もごくたまにだがある。前者は遅くなったときで、後者はかなり早い帰宅のときだ。
帰ってきてまずすることが、うがいと手洗い。それからTシャツとスウェットパンツに着替える。かれは、室内では、通年Tシャツなのだ。
ほんの数年前まで、オットにとってTシャツは、旅行先にて自分で買うか、だれかにもらうかのちがいこそあれ、基本的に「お土産」だった。わたしがショップで購入してきたものを見て、カルチャーショックを受けたようだ。
「......かっちょいいね」とつぶやいたオットの複雑な表情は忘れられない。たいそう嬉しそうに「ありがとう、ありがとう、かすみさん」といいながら、「でも、ぼくにはどうかなあ」ともじもじしていた。そこでわたしは「大丈夫だよ、すごく恰好いいよ」とはげました。
以降、オットは、毎年夏になると、「かっちょいいのを見繕ってきてください」とわたしに買い物の指示を出すまでに成長した。しかし、家のなかでヘビロテしているのはお土産Tシャツだ。ショップで購入したものは、よそゆきとして大事にしまってある。
ちなみにオットは外出するとき(めったにないけど)、襟のあるシャツにデニムを合わせる。春秋は綿のカーディガンを羽織り、冬は毛のカーディガンを羽織る。若干畏まった席ではカーディガンが紺のジャケットに変わる。これがオット・スタイルだ。だから、Tシャツのよそゆきというのは、暖かい国に旅行に出かけるときのためのものである。
いずれにしても、おしゃれの総仕上げとして持つのはセカンドバッグだ。なんというか、振り出しに戻るという感じがする。さりげなくちがうカバンを勧めても「そうねえ」というばかりで、山は動かない。
こうなったら、オットにはずうっとセカンドバッグを持っていてもらいたいとわたしは思う。
二代目のセカンドバッグはわたしがプレゼントしたものだった。あちこち擦り切れたのを使っていたから、見るに見かねたのだ。
オットはとても物持ちがいい。たいへん丁寧に扱うので、かれが持てば、ものの寿命が延びるのだった。愛着の度合いが深まるらしく、傍目には惨めに映っても手放しがたいようである。オットの愛用品との別れはわりと哀切だ。からだのどこかをつねられたような、痛そうな顔をする。だから、わたしはかれのものを勝手に捨てることができない。それがたとえどんなにみすぼらしいものであったとしても。
オットの特徴は、アイテムを換えない点だ。一度手に入れたアイテムを、かれは手放したがらない。かれの持ち物はすべて定番となる。使わなくても携帯は今後も持ちつづけるだろうし、セカンドバッグも同様だろう。そうして、かれは同じ行動様式で日を送るのだ。週末に爪を切りつづけ、4週間に一度、散髪に行きつづけるであろう。
だからこそ、わたしはかれの奥さんでいられるんだろうなあ、と思う。わたしたちがうまくいっているのは、ひとえにオットの物持ちのよさのおかげなのかもしれない。
機嫌よく毎日を暮らせたらそれがいちばん仕合わせだ。じつのところ、ダイヤモンドはそんなに欲しくない。どちらかというと、シャワートイレの買い替えのほうが急務だ。あと、壁紙の張り替えとか。いっそのこと、スイートテンリフォームというのはどうだろう。すごくフレッシュな気分になれると思うのだが。

2012/02/10 05:46:22
公演中止から10ヶ月、『戯伝写楽』の特別な五日間
2012/02/09 23:46:43
ネットカフェ、2300円。
2012/02/07 06:54:01
恋愛禁止もガマン/だってAKB48だから
2012/02/07 05:39:35
「福島の子どもたちからの手紙~ほうしゃのうっていつなくなるの?」発売します。
2012/01/29 10:05:02
期間限定!元・朝日新聞東京本社編集局長・外岡秀俊氏による文章教室、開校。
2012/01/23 10:20:44
AERA English 2012年3月号の内容は!
2012/01/22 14:19:12
16、「年賀状」考
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