朝倉かすみ[ぜんぜんたいへんじゃないです。]

2009年07月30日

割烹 潮

あー、愉しかった。沖縄。暑かったけど、思ったほどじゃなかった。食べ物もぜんぶ美味しかったし。

ふらっと寄ったお店----じいさんふたりが客席に座って山盛りのニンニクを剥いているような----でたべた、安くて盛りがよくて、ただ具材を切って炒め合わせただけですというようなゴーヤーチャンプルーも抜群の旨さだったが、「割烹 潮」でいただいたゴーヤーチャンプルーの炊き込みごはんの味わいの柔らかさといったら、それはもう。

たべているあいだ、夢のなかで出会った美女の細くしなやかな腰にそっと手を回す心象風景が広がり、うっとりしっぱなしだった。でも、おかわりはした。それでもたべきれなかったので、オリに詰めてもらって、明くる朝、いただいた。

夢のなかで出会った美女は、少しだけ薹(とう)が立っていたが、腰はやはり細くしなやかで、そっと手を回すとゆっくりとからだをあずけてきて、うれしい、たべてくださるの? と耳もとでささやかんばかりの風情。もろもろ、かくありたいものだ。

というのはともかく、わたしは、いま、このお店のなにもかもを絶賛したい気持ちでいっぱいだ。

懐石料理(和食)の店なのだが、事前に頼めば沖縄の食材を使ったコースも用意してくれる。わたしがいただいたのはこのコースだった。地元の食材を和食に仕立てた観光客向けのメニューと換言していいかもしれない。

こういう料理は、工夫しすぎて訳のわからない状態になったものが少なくない気がする。

食通ではないし、食に深い興味や関心を寄せる者でもないわたしのいうことだから、話半分に聞いていただいて構わない。わたしが「訳の分からない」と感じた一品が、グルメのかたたちからすれば、極上の一品となるケースも充分ありうる。思い浮かべてもらいたいのは、料理人の意欲(チャレンジ精神ともいう)が空回りしてしまったのだな、と、そういう感想をいだいたことのある一品だ。

「意欲があるのは結構ですが......」と苦笑しながら評したくなるような一品のことで、この科白、じつはわたしもいわれた経験がある。料理ではなく、小説だけど。苦笑付きでいわれたら、最高に恥ずかしくなる科白ナンバーワンだと個人的には思っている。

技術もセンスもないのだから余計なことをするなといわれたのも同然だからだ。おとなしくフツーに書けよ、と。それすらできないのに、いろんなことやりたがんなよ、と暗にいわれた気がする。いや、「暗に」じゃなかったかも。かなりはっきりいわれていたのかもしれない。

正確な文言は覚えてない。覚えているのは、「(自分では)すんげえイイと思ってたのにいぃぃ」と心中でさけびながら暗闇を真っ逆さまに落ちていく心象風景だ。あるいは「いやいやいやいや大大傑作じゃないですか、アサクラさん」と興奮気味に賞賛されるのを想定し、そしたら、ちょっと照れくさいけど、でもせっかくそういってくれるんだから、きちんとお礼をいおうと心に決めた脱稿直後の自分に凄惨な暴行をくわえるシーン。

どちらも驚くほど平凡だ。残念だが、落胆時の心の風景にはそんなにバリエーションがないと思うことにする。ちなみにわたしの記憶はそのときどきの心象風景で出来上がっているケースがわりに多い。さらにちなみに心象風景が広がっているあいだは相手の発言が耳に入っていない場合がほとんどだ。だから「意欲があるのは結構ですが......」のあと、実際は、フォローの言葉があった可能性もあると書いておく。

さて、「工夫」。もはやこのエッセイで毎度おなじみといっても過言ではない大辞林によると「いろいろと考えて、よい手段を見いだすこと。また、考え出した方法・手段」だ。

「工夫」をつけるためには、まず、アイデアがなくちゃね、というのがわたしの意見で、「アイデア」とは大辞林にあたってみるまでもなく「着想」のこと。そうして「アイデア」は、巷間伝えるところによる「すでにあるもの」の組み合わせの妙、が基本といまのところ考えている。

1・「アイデア」を得るためにセンスが必要なのはもちろんだが、その前に、「すでにあるもの」をよく知っていなければならない。
2・「アイデア」をかたちにするうえで「工夫」は欠かせない。
3・でも「工夫」をつけすぎてはいけない。
4・かといって、つけなさすぎてもいけない。

「アイデア」は、派手派手しく飾り立てても、丸太ん棒みたいにごろりと転がせても品下るんじゃないかなあ、と、これもまた驚くほど当たり前のことをいっている。ただし、自分ができるかどうかはべつとして。1から4までぜんぶやるのってむずかしいよね、とだれにともなく同意をもとめて慰め合いたくなるが、そんなひまがあったら、黙って努力したほうがいいと思う。だって、そのむずかしいことをやっているひとたちが現にいるんだからさあ。

「割烹 潮」の店主はたぶん、そういうひとたちのひとりだ。

ゴーヤーチャンプルーの炊き込みごはんだけでなく、「すでにあるもの」の組み合わせの妙と工夫で、「新しいもの」を沖縄県那覇市若狭でつくっている。しかも、琴線に触れるほどのイケメンだ。構え、雰囲気、器、すこぶるシックで、なんかこう女殺しの店って感じだ。いや、女だけじゃないかもしれない。行けば分かる。

沖縄

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