トークイベント
『ともしびマーケット』発刊を記念して、トークイベントをやってきた。昨日だ。場所は青山ブックセンターのカルチャーサロンだ。北海道では何度か人前で話したことはあるが、都内では初めてだった。お客さまが来てくださるかどうか心配したが、会場が埋まって、ほんとうによかった。なぜなら、トークイベントをやりたいといいだしたのはわたしだからだ。版元の希望でも、書店の希望でもない。わたしの希望で実現した企画なのだ。
というのも、『ともしびマーケット』を書いたのはいまから4年前の2005年。ある程度数奇な運命をたどり、今夏ようやく本になったことを個人的に大いにことほぎたかったし、この連作短編集はその後、いろいろな意味でわたしが書いたもののベースになっているので、言い訳したいというんじゃないけれど、いわゆる「焼き直し」じゃないんですよ、こっちのほうが早いんですよ、といいたかったからだ。これを書いたから、5年間やってこられたんですよ、というのもある。そういうことを自分の口から伝えたかった。
でも、よく考えると、それらはぜんぶこちらの事情だし、「こちらの事情」だけで版元や書店、聞き手になってくださる豊崎さんを巻き込んでいいのかとイベントの日が近づくにつれ、たいへん不安になった。
定員は80人ですとか、書店のサイトに告知がでましたとか、ポスターができましたとか、打ち上げは何時からにしましょうとか、それぞれの担当者が動き始め、話が具体的になっていくにつれ、えもいわれぬ大事(おおごと)感が迫ってきて、自分でいいだしたにもかかわらず、どどどどうしよう、と、そんな文言が頭のなかをぐるぐるしだした。
いちばん情けなかったのは、豊崎さんと事前に短い打ち合わせをしたときだ。だいたいこういうことを訊きますよ、といわれて、反射的にそんなむずかしいことには答えられない、と思った。少なくとも、要領よくは答えられない。
小説でもそういうところがあるのだが、わたしには、普段ひとと会話する際の「話をまとめるための語彙」が著しく不足している。説明もはしょりがちだ。唐突に始まり唐突に終わる印象をあたえるらしい。「いつ?」「どこで?」「なにが?」と5W1Hの質問を適宜挟み込まれてようやっと「説明」がかたちになるという具合。
緊張が高まり、無口になったわたしに「だーいじょうぶですよー」と豊崎さんは軽やかに励ましてくださったが、以前北海道でご一緒した経験をふまえると、本番でも同じ調子で接してくれるとは思えなかった。訊かれることはおおむね事前の打ち合わせに沿ったものだろうが、それだけで終わるはずなんてなくて、ぐさっと切り込まれる局面があるんだろうなあ、きっと。
わたしの観察によると、豊崎さんが唇のはしを片ほう上げてニヤリとしたり、それまで若干の運動をしていた柔らかな黒目が微動だにしなくなって、どこか一点をコツンと凝視したら、要注意だ。間髪入れずこちらの深いところに攻め入ってくるケースが多い気がする。思わず、サバンナなどで猛獣が獲物に躍りかかるシーンが脳裏をよぎる。怖い。
怖いと感じるのは、自分が猛獣の獲物になるからではなくて、だれにもいわずにただ心のなかで思っていたり、考えたりしていたことを言葉に置き換えて発する行為だったり、あるいは、切り込まれた内容が自分にとってすごく大事だとその場で気づき、本気ではっとすることだったりする。「はっとする」のは、素裸くらい無防備なすがたをさらすのと同じだ。さらに、その件にかんして、いままでちゃんと考えていなかったことも明らかになる。その場で考え、口にする言葉は、だいたいの場合、われながらほんの少し意外だ。自分がこんなことを考えていたなんて知らなかった、と驚くのは、怖いけど、面白い。
当日は、版元の講談社のかたが受付をしてくれたり、なにかとお世話をしてくれた。青山ブックセンターのかたも会場を設営してくれ、販売用のわたしの本をワゴンに積んでくれた。それぞれの仕事をしているだけなのかもしれないが、わたしには、ひとつひとつが、ありがたかった。いつもお世話になっているかたがたや、中学時代の同級生が来場してくれたのも嬉しかった。なにより、こんな機会でもなければお会いできない読者のみなさん(「みなさん」というほど多くないけど)と接することができたのが嬉しかった。ありがとうございました。
ところで肝心のトークショーの内容なのだが、わたしとしては、怖くて面白かった。でも、この怖さと面白さを来場されたかたがたに伝えられたかどうかはよく分からない。精進したい。
というのも、『ともしびマーケット』を書いたのはいまから4年前の2005年。ある程度数奇な運命をたどり、今夏ようやく本になったことを個人的に大いにことほぎたかったし、この連作短編集はその後、いろいろな意味でわたしが書いたもののベースになっているので、言い訳したいというんじゃないけれど、いわゆる「焼き直し」じゃないんですよ、こっちのほうが早いんですよ、といいたかったからだ。これを書いたから、5年間やってこられたんですよ、というのもある。そういうことを自分の口から伝えたかった。
でも、よく考えると、それらはぜんぶこちらの事情だし、「こちらの事情」だけで版元や書店、聞き手になってくださる豊崎さんを巻き込んでいいのかとイベントの日が近づくにつれ、たいへん不安になった。
定員は80人ですとか、書店のサイトに告知がでましたとか、ポスターができましたとか、打ち上げは何時からにしましょうとか、それぞれの担当者が動き始め、話が具体的になっていくにつれ、えもいわれぬ大事(おおごと)感が迫ってきて、自分でいいだしたにもかかわらず、どどどどうしよう、と、そんな文言が頭のなかをぐるぐるしだした。
いちばん情けなかったのは、豊崎さんと事前に短い打ち合わせをしたときだ。だいたいこういうことを訊きますよ、といわれて、反射的にそんなむずかしいことには答えられない、と思った。少なくとも、要領よくは答えられない。
小説でもそういうところがあるのだが、わたしには、普段ひとと会話する際の「話をまとめるための語彙」が著しく不足している。説明もはしょりがちだ。唐突に始まり唐突に終わる印象をあたえるらしい。「いつ?」「どこで?」「なにが?」と5W1Hの質問を適宜挟み込まれてようやっと「説明」がかたちになるという具合。
緊張が高まり、無口になったわたしに「だーいじょうぶですよー」と豊崎さんは軽やかに励ましてくださったが、以前北海道でご一緒した経験をふまえると、本番でも同じ調子で接してくれるとは思えなかった。訊かれることはおおむね事前の打ち合わせに沿ったものだろうが、それだけで終わるはずなんてなくて、ぐさっと切り込まれる局面があるんだろうなあ、きっと。
わたしの観察によると、豊崎さんが唇のはしを片ほう上げてニヤリとしたり、それまで若干の運動をしていた柔らかな黒目が微動だにしなくなって、どこか一点をコツンと凝視したら、要注意だ。間髪入れずこちらの深いところに攻め入ってくるケースが多い気がする。思わず、サバンナなどで猛獣が獲物に躍りかかるシーンが脳裏をよぎる。怖い。
怖いと感じるのは、自分が猛獣の獲物になるからではなくて、だれにもいわずにただ心のなかで思っていたり、考えたりしていたことを言葉に置き換えて発する行為だったり、あるいは、切り込まれた内容が自分にとってすごく大事だとその場で気づき、本気ではっとすることだったりする。「はっとする」のは、素裸くらい無防備なすがたをさらすのと同じだ。さらに、その件にかんして、いままでちゃんと考えていなかったことも明らかになる。その場で考え、口にする言葉は、だいたいの場合、われながらほんの少し意外だ。自分がこんなことを考えていたなんて知らなかった、と驚くのは、怖いけど、面白い。
当日は、版元の講談社のかたが受付をしてくれたり、なにかとお世話をしてくれた。青山ブックセンターのかたも会場を設営してくれ、販売用のわたしの本をワゴンに積んでくれた。それぞれの仕事をしているだけなのかもしれないが、わたしには、ひとつひとつが、ありがたかった。いつもお世話になっているかたがたや、中学時代の同級生が来場してくれたのも嬉しかった。なにより、こんな機会でもなければお会いできない読者のみなさん(「みなさん」というほど多くないけど)と接することができたのが嬉しかった。ありがとうございました。
ところで肝心のトークショーの内容なのだが、わたしとしては、怖くて面白かった。でも、この怖さと面白さを来場されたかたがたに伝えられたかどうかはよく分からない。精進したい。

2012/02/10 05:46:22
公演中止から10ヶ月、『戯伝写楽』の特別な五日間
2012/02/09 23:46:43
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2012/02/07 05:39:35
「福島の子どもたちからの手紙~ほうしゃのうっていつなくなるの?」発売します。
2012/01/29 10:05:02
期間限定!元・朝日新聞東京本社編集局長・外岡秀俊氏による文章教室、開校。
2012/01/23 10:20:44
AERA English 2012年3月号の内容は!
2012/01/22 14:19:12
16、「年賀状」考
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