朝倉かすみ[ぜんぜんたいへんじゃないです。]

2009年09月14日

問題点その1

 申し訳なかった。原稿が2回分も遅れてしまった。なにをやっていたのかというと、小説を書いていた。
 小説を書きながらエッセイ連載もきちんとこなす作家は多い。いや、「多い」どころではない。ほとんどの作家がきちんとやっているだろう。それが、なぜ、わたしはできないのか。向いてないんじゃないのか、この仕事。文筆業、というもの。
 わたしの問題は、作業を並行してできない点にあると思う。
 これは、かねてより指摘されていた。だれにって、わたしにだ。本人だ。要は「気づいていた」ということなのだが、わたしがなにかに気づくのは、だいたい、頭のなかで、「わたし」をもうひとり立て、そのひとと会話しているときなので、感覚としては「指摘される」になるのである。
 くわしくいうと、脳内で立てる「わたし」は、リアルで知り合ったひとたちの集合体だ。特定の「だれか」ではない。
 ときに、特定の「だれか」であるケースもあるが、この場合の「だれか」はたいてい面識のないひとだ。つまり有名人だ。各種メディアが伝えるかれらの動向や発言について、あれこれ訊いてみることはある(ただし脳内で)。たとえば「車のなかから手を振るってどんな気持ち?」とか。そしたら「けっこう、無」と答えがきて、「無なんだ」「てか既に習い性? ミッション的な?」「ミッション、多そうだよねー」と会話がはずむとか(あくまでも脳内)。
 まあ、それはそれで愉快なのだが、「集合体」に話を戻す。
 なにかを考えるとき、わたしは会話というかたちをとりがちだ。そのほうが「進む」し、飽きない。たとえ脳内であっても、聞く、話す、という行為を通すと、たわみながら考えがまとまっていく感じがして、好きなのだ。
 たとえ脳内といえども会話をするには相手がいなくてはならない。リアルで知り合った特定のだれかを想定してもいいのだが、あいにくわたしは脳内で会話する時間がわりと長い。そして、いつなんどき、会話をスタートさせるか自分でも分からない。歯を磨いているとき、顔を洗っているとき、お風呂に入っているとき、移動中、歩行中、ふっと会話に入るのだった。
 リアルでの知人や友人の「だれか」を脳内会話の相手に立てないのは、たとえ脳内といえども、自分の都合で呼びつけ、長時間会話に付き合わせるのが心苦しいからだ。
 もう、確実にどうでもいいくらい細かいことをいうと、リアルでの知人や友人を脳内会話の相手に呼んだ場合、「あー、ごめんねー、忙しいのに」とか「いや、そんな、たいした話じゃないんだけどさー」など、ある程度の挨拶が必要になるので、正直いって、めんどうなのだ。その相手の服装とかようすも想像しなければならないし(強制されたわけではないが)、大人のエチケットとして、近況も訊ねたほうがいいし、そしたら、その「近況」もわたしが捏造しなければならないから、本題に入る前にくたびれてしまうのだ。想像疲れだ。
 思えば、わたしはむかしからこういうところがある。
 好きなひと、あるいは憧れのアイドルと恋人どうしになる、という想像を始めたら、ぐったりする。喩えるならば、機織りをする鶴か。自分の羽根を引き抜いて美しい布を織るという感じ? 恩返しはしないが、寝食を忘れることはある。そのくらい熱中するのだ。くる日もくる日も想像する。
 だが、わたしたちの関係はなかなか進展しない。ディテールにこだわりすぎるからだ。
 えっと、カレがカフェの窓側の席であたたかいものをのんでいるとき、わたしがたまたまその窓の外を通り過ぎ、一瞬だけ目が合う(出会いのシーン)としますね。するとわたしは、それは何年何月何日何時ごろであったか、カレはどんな衣服を着用し、なぜそのカフェ(どんなカフェ?)にきて(待ち合わせ? それともぶらっと?)いたのか、どんなようすで(足、組んでる? 本、読んでる?)、なにをのみ(そしてどんな持ち方? カップに唇をあてる位置は?)、などなど、ひとつずつ具体的につぶしていかなければ気がおさまらないのだ。俗にいう現場百回の勢いで、(脳内で)カフェのシーンを繰り返し繰り返し、そして、繰り返す日々がつづくのである。
 わたしの憧れのミュージシャン筆頭はベンジーなのだが、かれとは(脳内で)一緒にお茶をのむまで一年以上かかった。しかし、いまだ、連絡先の交換にはいたっていない。なぜなら、その段階に辿り着くまでに想像疲れしてしまい、やめてしまったからだ。残念である。残念といえば、作業を並行してできないというわたしの問題点にも結局触れずじまいになった。次回、言及し、反省したい。

朝倉かすみ

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