2008年10月06日

引きこもりやニートの「学校」

「聴導犬」が自立を支援

ライター 佐々木ゆり


集団生活になじめず、長く自宅に引きこもっていた20代の男性2人が9月、横浜市旭区の「あすなろ学校」の第1期生として卒業式を迎えた。少し風変わりなのは、晴れ姿を見守る2匹の犬がいたことだ。シーズーの「ハーモニー」とパピヨンの「響(ひびき)」。2人が寝食を共にして世話をした聴導犬の卵だ。

同校は、聴導犬の育成を通じて、引きこもりやニートの若者の自立を支援する施設。韓国企業サムスンの日本法人、日本サムスンがNPO法人日本補助犬協会と連携し、今年5月に開設した。サムスンは韓国で盲導犬など特殊犬の育成を手がけており、2年前から少年院の少年らに捨て犬の世話をさせる更生プログラムも行っている。

「犬とのふれ合いは心の成長にプラス効果がある。日本でもノウハウを生かした事業をしたいと考えました」(同社広報部)

◆米国5千頭、日本18頭

そして、引きこもりやニートの増加と、遅れている聴導犬の育成という二つのテーマを結びつけた。聴覚障害者のパートナーとして、電話の着信音や玄関のベルなど様々な生活の音を的確に伝えるのが聴導犬の役割だ。発祥の地の米国では30年間で約5千頭育成されたが、日本にはまだ18頭しかいない。

校舎は民宿風の平屋建て。生徒は自立支援担当者1人、聴導犬訓練士2人と共同生活を送りながら、「台所」や「居間」で聴導犬の訓練をする。

犬の集中力を勘案し、訓練は1日1時間程度。取材をした日は、キッチンタイマーの音を飼い主に知らせる動作を繰り返させた。タイマーが鳴ると駆け寄って音源を確かめ、ソファに座っている飼い主役のスネを両脚でトントンとタッチするのだ。

犬のしつけやトリミング、散歩、エサやりなども生徒たちの仕事だ。聴覚障害者の人たちとコミュニケーションがとれるように手話講座もある。さらに放送大学の受講、個別カウンセリングなどもプログラムに組み込まれ、1時間半の昼休み以外は夕方までかなり忙しい。

◆「犬の世話で責任感」

担当した犬と寝起きも一緒だった2人は、口をそろえる。

「生き物の世話をするのは大変だけど、そのおかげで自分がしっかりしなきゃいけないという責任感が持てるようになった。訓練士の方や手話の先生などいろいろな人と接することができて、世界も広がりました」

一人は福祉関係の施設に就職が決まった。もう一人は、動物関連の専門学校に来春進学することを決め、それまでここでもう1期過ごすつもりだ。

「2人とも入校時は他人と目を合わせられず、あいさつもきちんとできませんでした。でも聴導犬の訓練を通じて協調性を身につけ、今はとてもしっかりしています。社会に出て何か困ったときは、いつでもここを訪ねて来なさいと言っています」

そう話す施設長の朴善子(パクヨシコ)さんらスタッフは10月、2期生を迎える。ハーモニーと響は訓練士のトレーニングをあと数カ月受け、聴導犬デビューを目指す。

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