2009年02月01日

いすゞ派遣「将来」と「復讐」

51人 70日密着ルポ

20090209_s_1.jpg 編集部 澤田晃宏 ライター 本山裕記


◆一円でも多く

引っ越しは5分で終わった。

1月7日、クワタさん(42)=鹿児島県出身=は宇都宮市内の県営住宅に入居した。

一人では広すぎる3DKの部屋に残ったのは、ダンボール3箱と自前のテレビ1台。

さっそくテレビを設置しようとしたが、建物の作りが古いせいか、アンテナ線が差し込めない。風呂場はあるが、浴槽はない。6カ月間しか住めないとはいえ、家賃は5千円。文句は言えない。

いすゞで働き始めた当初、夜勤や残業もあって、手取りは約25万円あった。しかし、10月に入ると減産のために製造ラインから外され、掃除のチームに移された。夜勤、残業もなくなり、手取りは12万円程度に減った。

11月17日、いすゞ自動車の派遣・期間社員1400人全員に対する解雇通知が出た。

同じ掃除チームにいた32人のうち、解雇日に出勤したのは12人。有給を使って就職活動をしている人が多かった。

だが、クワタさんは最後の日まで働いた。雇用保険に6カ月以上加入していないから、失業給付も申請できない。1日でも多く働いて、1円でも多く金が欲しかった。

◆現代版「出稼ぎ労働」

本誌は、いすゞの派遣切りが公表されてから、解雇される派遣社員らを訪ね、栃木と藤沢の工場で働く51人に密着した=本誌18~19ページのチャート。多くは30代以上でリストラや解雇、経営難による退職の経験があった。地方出身者も多かった。いわば派遣は現代版「出稼ぎ労働」とも言えた。

運送会社に勤めていた熊谷義則さん(46)=青森県出身=も勤めていた会社に解雇され、いすゞにやってきた。

「お土産持って帰れなくて悪いな」

年末、中学1年生の息子に電話をかけた。代わって電話に出たパート従業員の妻は、

「青森には仕事がない。雪が解けて春になるまでは、何とかそっちで頑張って」

帰りたくても帰れない。

◆身重の妻は怒鳴った

解雇の知らせをタケダさん(29)=北海道出身=は、努めて明るい表情で妻に知らせた。
妻はすぐに理解できなかったようだ。深夜になって急に、飛び起きた。腹を指差しながら、怒鳴った。

「これ、どうすんの」

昨年6月、妻は妊娠し、同時に籍も入れた。

期間工として入社したのは5年前。今年4月には正社員の試験を受ける予定になっていた。

後日、妻がペラ一枚の解雇通告書に「クソ会社 クソ会社 クソ会社」と落書きし、「ふざけるなよ!」と絶叫しながら、壁をこぶしで叩いていた。

バックナンバー

アエラ最新号

2012年2月13日号

2012年2月13日号

最新号キーワード

食の信念が揺らぐ 銀行窓販保険の魅力と危険 早慶女子「一般職がいい」 女心の複雑 「脱東電」で電気代26%節約 「驚異の儲け」グリーよ どこへ行く 絢香インタビュー 荻原博子の石巻ルポ 今年の花粉症 AKB48「恋愛で脱退」のルールと戦略 

2012年2月13日号
定価:380円(税込)
表紙:松田翔太/俳優

雑誌を購入

デジタル雑誌を購入

から検索
から検索