2009年12月18日

死ぬ前の最期の後悔と向き合う。

患者、医師たちの「心の痛み」との闘い

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編集部 大重史朗、古川雅子、伊東武彦 ノンフィクション作家 山岡淳一郎


葬儀の後で、一葉の写真を差し出された。

鼻に酸素チューブをつけた夫が、そばの捏ね鉢に向かっている。その姿を、妻が不安そうに見ている。妻は、こう話した。

「主人は、『これだけは、何としてもやり遂げる』という意志だけで立っていたんだと思います。」

山梨県甲府市の片桐伸介さんが、がんと闘い続けて4年目の秋だった。膀胱がんが腹に転移し、11月に入ると、立っているのもままならなくなった。

◆もう一度生き直す物語

英国で在宅ホスピスを学び、甲府市内で「ふじ内科クリニック」を開く内藤いづみさん(53)は撮影の4日前に片桐さんを往診している。

「そば打ちの技術を、自分の手で伝えてからでないと死ねないんです」

電子部品メーカーの社長まで務めたが、58歳で早期退職するまで健康には恵まれなかった。46歳の時、心筋梗塞で倒れた。

以後は、「おまけの人生だ」と話していた。リハビリを兼ね、そば打ちを始めた。そば店を開いたのが2002年。歯ごたえがあって、のどごしがよいと評判になり、著名人も訪れる人気店になった。膀胱がんが見つかったのは、その矢先だった。

内藤さんが担当医になった今年4月、片桐さんは悔いも漏らしていた。

「そば店の他にも、新しい事業のアイデアはいくらでもあるんです。あと3年ほしい......」

病状が進行するにつれて、無念を口に出すことはなくなった。代わりに生きていた証として、そば打ちの儀式にこだわった。

そば打ちの数日後、内藤さんは片桐さんの病室を訪ねた。少年のような表情をしていた。

「儀式はライフワークを締めくくるけじめだったのでしょう。ホスピスケアの現場には、人が人生を終えようとする時、もう一度生き直す『いのちの物語』があります。」

そば打ちから18日後の12月7日、片桐さんは66歳で亡くなった。静かな最期だったーー。

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