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ハングリー!〜 飢えてる私の心と体〜 <50>
大賀(たいが)のマンションのチャイムを鳴らすと、コンクリ打ちっぱなしの灰色のおしゃれな空間から、彼は顔を出した。
(どうしちゃったの!?)
と思わず聞きたくなるくらいに、やつれた顔をしていた。
頬(ほお)の肉が少し落ちて、目の下にくまができて、そして瞳だけがギラギラとして......。
「苑花(そのか)さん......」
大賀は、力ない声で、どうしてここに、と尋ねてきた。
「お店が3日も休みだったから、どうしたのかなと思って」
「心配してくれたんですか、ありがとう」
答えながら、ふうっ、と彼は息をついた。
「ちょっと......、いろいろありすぎて」
彼のいろいろを、きっと私はかなり知っている。でもあえて黙っていた。
「なんというか......、全部裏目に出ちゃって」
彼はいつになく苦しそうな顔をしていた。
いつもにこにこと愛想良く、女性客にノンアルコールドリンクを振る舞っていた大賀とは、全然違う、何かをあきらめ、絶望しているかのような顔だった。
「店を、開ける気に、なれないんですよ」
「みんな淋しがるわよ。常連さんたちとか、大賀くんのドリンクを楽しみにしてると思うし」
「誰かに会いました?」
「そう......ね、横山さんに」
途端、彼の表情はこわばった。言わないほうがよかったかと思ったけれど、向こうから畳みかけてきた。
「何か言ってましたか、横山さん」
「うん......大賀くんのこと、心配してた」
「心配......」
彼はふっと目を細めた。
「心配......してもらってるんだ」
「してるわよ。3日もお店開けないんだもの」
「てっきり......憎まれてると思った」
「そんなことないわよ」
お昼に話した横山さんの暗い瞳を正直に伝える気にはなれなかった。
「何か、横山さんのこと、聞きました?」
「うん、とっても残念な話......」
「聞いたんですね」
大賀は、打たれ弱いのかもしれなかった。横山さんに少し非難されたことを、くよくよと気に病んでいるのだ。
「残念って、赤ちゃんのこと、ですよね?」
「ええ......」
「僕は......何もしてあげられなくて」
悔しそうに唇を噛(か)んで、自省している。
「もっと勉強しておけば、妊婦さんのこともわかってただろうに、ドリンクのことで手一杯で、そこまでは」
「大賀くんのせいじゃないわ」
私がまだ玄関口に立っているのに気づいた彼は、慌ててソファへと私を案内した。彼の部屋は、情けないくらいに散らかっていた。本や資料が散乱していて、そのほとんどはフード関係のものだったから、必死に妊婦の栄養についても調べていたのかもしれない。
「もっと、みなさんのお役に立てるつもり、だったんですよ」
くしゃくしゃのシャツ、膝(ひざ)の裏にシワが何本も入ったジーンズの彼は、この2、3日、ひょっとしたら同じ服を着続けているのだろうか。うっすらと無精髭(ぶしょうひげ)も、生え始めている。
「おいしくて、健康にいいドリンクを提供して、喜んでいただくつもりだったんだけど。横山さんには叱られましたよ。ドリンクのウンチクよりも、もっと基礎情報をしっかり仕込んでおかなくちゃダメだって」
ソファで隣に座る大賀は、自分の足下をじっと見つめたまま、話し続けている。彼は裸足だった。
「僕のところに、悩みも、体調の不調も、全部置いていって、元気になって帰っていただけるよう、僕なりに、尽くしてたつもりだったんですけど。
全然場数も知識も足りないから、イザというときに、何の役にも立たない。こんな役立たずが店なんかやっていいのかと......」
「だいじょうぶよ」
私は急いで口を挟んだ。
「おいしいドリンクを飲ませてもらえれば、それで、充分だもの」
「そうですか?」
「そうよ。あんまり自分を責めすぎないほうがいいわ。今回のことは残念だったけれど、でも原因はお医者様にもわからないし、食事のせいだとも言い切れないんでしょ。
横山さんも、八つ当たりして悪かったって、言ってたわよ」
「そう......ですか」
彼は神妙な顔で私の話を聞いていた。安心したとも悩んでいるともとれない顔だった。
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(毎週月曜日、木曜日更新)
(どうしちゃったの!?)
と思わず聞きたくなるくらいに、やつれた顔をしていた。
頬(ほお)の肉が少し落ちて、目の下にくまができて、そして瞳だけがギラギラとして......。
「苑花(そのか)さん......」
大賀は、力ない声で、どうしてここに、と尋ねてきた。
「お店が3日も休みだったから、どうしたのかなと思って」
「心配してくれたんですか、ありがとう」
答えながら、ふうっ、と彼は息をついた。
「ちょっと......、いろいろありすぎて」
彼のいろいろを、きっと私はかなり知っている。でもあえて黙っていた。
「なんというか......、全部裏目に出ちゃって」
彼はいつになく苦しそうな顔をしていた。
いつもにこにこと愛想良く、女性客にノンアルコールドリンクを振る舞っていた大賀とは、全然違う、何かをあきらめ、絶望しているかのような顔だった。
「店を、開ける気に、なれないんですよ」
「みんな淋しがるわよ。常連さんたちとか、大賀くんのドリンクを楽しみにしてると思うし」
「誰かに会いました?」
「そう......ね、横山さんに」
途端、彼の表情はこわばった。言わないほうがよかったかと思ったけれど、向こうから畳みかけてきた。
「何か言ってましたか、横山さん」
「うん......大賀くんのこと、心配してた」
「心配......」
彼はふっと目を細めた。
「心配......してもらってるんだ」
「してるわよ。3日もお店開けないんだもの」
「てっきり......憎まれてると思った」
「そんなことないわよ」
お昼に話した横山さんの暗い瞳を正直に伝える気にはなれなかった。
「何か、横山さんのこと、聞きました?」
「うん、とっても残念な話......」
「聞いたんですね」
大賀は、打たれ弱いのかもしれなかった。横山さんに少し非難されたことを、くよくよと気に病んでいるのだ。
「残念って、赤ちゃんのこと、ですよね?」
「ええ......」
「僕は......何もしてあげられなくて」
悔しそうに唇を噛(か)んで、自省している。
「もっと勉強しておけば、妊婦さんのこともわかってただろうに、ドリンクのことで手一杯で、そこまでは」
「大賀くんのせいじゃないわ」
私がまだ玄関口に立っているのに気づいた彼は、慌ててソファへと私を案内した。彼の部屋は、情けないくらいに散らかっていた。本や資料が散乱していて、そのほとんどはフード関係のものだったから、必死に妊婦の栄養についても調べていたのかもしれない。
「もっと、みなさんのお役に立てるつもり、だったんですよ」
くしゃくしゃのシャツ、膝(ひざ)の裏にシワが何本も入ったジーンズの彼は、この2、3日、ひょっとしたら同じ服を着続けているのだろうか。うっすらと無精髭(ぶしょうひげ)も、生え始めている。
「おいしくて、健康にいいドリンクを提供して、喜んでいただくつもりだったんだけど。横山さんには叱られましたよ。ドリンクのウンチクよりも、もっと基礎情報をしっかり仕込んでおかなくちゃダメだって」
ソファで隣に座る大賀は、自分の足下をじっと見つめたまま、話し続けている。彼は裸足だった。
「僕のところに、悩みも、体調の不調も、全部置いていって、元気になって帰っていただけるよう、僕なりに、尽くしてたつもりだったんですけど。
全然場数も知識も足りないから、イザというときに、何の役にも立たない。こんな役立たずが店なんかやっていいのかと......」
「だいじょうぶよ」
私は急いで口を挟んだ。
「おいしいドリンクを飲ませてもらえれば、それで、充分だもの」
「そうですか?」
「そうよ。あんまり自分を責めすぎないほうがいいわ。今回のことは残念だったけれど、でも原因はお医者様にもわからないし、食事のせいだとも言い切れないんでしょ。
横山さんも、八つ当たりして悪かったって、言ってたわよ」
「そう......ですか」
彼は神妙な顔で私の話を聞いていた。安心したとも悩んでいるともとれない顔だった。
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