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ハングリー!〜 飢えてる私の心と体〜 <52>
人を癒すなんて、難しいですよね、と、大賀(たいが)はさみしそうに笑った。
「僕なりにうまくやってたつもりなんですよ。症状に合わせた飲み物をお出ししたり、何かと相談に乗ってきたつもりですし。
普通のバーとは違うこと、したかったんですよ。酒でごまかさず、ちゃんとお客様と向き合っていけたらって。
簡単じゃん、って、ついこの間までは、思ってたんです。グチきいて、なぐさめていれば、大抵の女性はそれで満足してくれるし。それにプラスしてその人のためだけにドリンクを出してあげるから、それもまた喜んでもらえるし。
女の人って、ちょっとしたプレゼントと、ちょっとしたうなずきだけで、かなり満たされるんです。逆に言えば、プレゼントもされないし話を聞いてももらえない女性が結構いるというわけで。
店の家賃払っても自分がひとり暮らすだけだったら、なんとかやっていけるんじゃないかなって、思い始めていたら、この有り様ですよ。
横山さんの変調にも気づいてあげられなかったし、ゆりさんを不機嫌にさせちゃったし。それに苑花(そのか)さんとは、あんなことになっちゃったし......」
「......あんなこと?」
「あんなこと、ですよ。その、キスしちゃったりとか」
「他のお客さんとはしてないの?」
「してないですよ。いちいちしてたら、身がもたないですよ」
「ゆりさんとも?」
「してないんですよ。そう言っても、信じてはもらえないかもしれないけれど」
「うん、信じない」
「やっぱり」
大賀は白い歯を見せて笑った。
「僕は結構意地悪なんで、向こうから「キスして」と言ってくれればするけれど、そんな、自分から襲ったりはしませんよ」
顔が熱くなった。
「私、自分から言ったっけ」
「言いましたね。キスしてって言いましたよ」
そういえばそうだった、と全身が火照ってくる。
「でも、ゆりさんがキスしてって言えば、するんだ」
「しますよ。それでゆりさんが元気になるんなら」
大賀はさらりとそう言った。
「ひょっとしたら温泉旅行のときに、いいムードになりたかったのかもしれないけど、あの時は僕は、横山さんに叱られて、それどころじゃなかったし。ゆりさんとはご縁がないのかもしれない」
苑花さんとだけですよ、と彼は目を細めて私を見つめている。
「何度キスしても、したりなそうな顔をするから、すごく可愛くて。それからは、自分からするようになっちゃいましたけど」
そう......。
私たちは、バーで、それから彼の部屋で、キスをしたり、口移しで食べ物をやりとりしたり、それから抱き合ったり......。
今思い返すと、結構大胆なことを、してきている。
「でも、お客様の希望をなるべく叶えてあげたい、楽しく健康になってもらいたい、という僕のスタイルが、全否定された気がして。桃奈(ももな)もなんか、熱出しちゃったし」
ふう、と、大賀は息をついた。
軽くシワのよったシャツが、彼のさみしさを表しているかのようだった。
「店、閉めたほうがいいのかな、って思うんです。僕がやってることは、かえって女性を傷つけてる気がして。
まったく、大して女慣れもしてない男が、バーなんてやるから、こんなことになっちゃったわけだし」
「やめてほしくない」
反射的にそう呟(つぶや)いていた。
「お店がなくなったら、私、行くとこなくなっちゃう。せっかく立ち直りかけてるのに。あのお店に行くのが、いいリハビリだったのに」
またたったひとりで、失った食欲を探して暗い部屋の中でぼうっと座り込んでいるのは、いやだった。だから必死だった。
「私のために、店を閉めないで。お願い、私が立ち直るまでは『のんある』を営業していて」
「苑花さん......」
大賀が私を見つめて何か言いたそうに口を開けたけれど、言葉を発しないうちに、閉ざした。
再度唇を動かした時には、明るい口調になっており、
「飲もうよ! 僕、オーガニックビールなら、冷蔵庫にあるから!」
と、私を誘ったのだった。
「私、お酒は......」
気持ちがすくんだ。
アルコールはずっと口にしていなかったからだ。
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(毎週月曜日、木曜日更新)
「僕なりにうまくやってたつもりなんですよ。症状に合わせた飲み物をお出ししたり、何かと相談に乗ってきたつもりですし。
普通のバーとは違うこと、したかったんですよ。酒でごまかさず、ちゃんとお客様と向き合っていけたらって。
簡単じゃん、って、ついこの間までは、思ってたんです。グチきいて、なぐさめていれば、大抵の女性はそれで満足してくれるし。それにプラスしてその人のためだけにドリンクを出してあげるから、それもまた喜んでもらえるし。
女の人って、ちょっとしたプレゼントと、ちょっとしたうなずきだけで、かなり満たされるんです。逆に言えば、プレゼントもされないし話を聞いてももらえない女性が結構いるというわけで。
店の家賃払っても自分がひとり暮らすだけだったら、なんとかやっていけるんじゃないかなって、思い始めていたら、この有り様ですよ。
横山さんの変調にも気づいてあげられなかったし、ゆりさんを不機嫌にさせちゃったし。それに苑花(そのか)さんとは、あんなことになっちゃったし......」
「......あんなこと?」
「あんなこと、ですよ。その、キスしちゃったりとか」
「他のお客さんとはしてないの?」
「してないですよ。いちいちしてたら、身がもたないですよ」
「ゆりさんとも?」
「してないんですよ。そう言っても、信じてはもらえないかもしれないけれど」
「うん、信じない」
「やっぱり」
大賀は白い歯を見せて笑った。
「僕は結構意地悪なんで、向こうから「キスして」と言ってくれればするけれど、そんな、自分から襲ったりはしませんよ」
顔が熱くなった。
「私、自分から言ったっけ」
「言いましたね。キスしてって言いましたよ」
そういえばそうだった、と全身が火照ってくる。
「でも、ゆりさんがキスしてって言えば、するんだ」
「しますよ。それでゆりさんが元気になるんなら」
大賀はさらりとそう言った。
「ひょっとしたら温泉旅行のときに、いいムードになりたかったのかもしれないけど、あの時は僕は、横山さんに叱られて、それどころじゃなかったし。ゆりさんとはご縁がないのかもしれない」
苑花さんとだけですよ、と彼は目を細めて私を見つめている。
「何度キスしても、したりなそうな顔をするから、すごく可愛くて。それからは、自分からするようになっちゃいましたけど」
そう......。
私たちは、バーで、それから彼の部屋で、キスをしたり、口移しで食べ物をやりとりしたり、それから抱き合ったり......。
今思い返すと、結構大胆なことを、してきている。
「でも、お客様の希望をなるべく叶えてあげたい、楽しく健康になってもらいたい、という僕のスタイルが、全否定された気がして。桃奈(ももな)もなんか、熱出しちゃったし」
ふう、と、大賀は息をついた。
軽くシワのよったシャツが、彼のさみしさを表しているかのようだった。
「店、閉めたほうがいいのかな、って思うんです。僕がやってることは、かえって女性を傷つけてる気がして。
まったく、大して女慣れもしてない男が、バーなんてやるから、こんなことになっちゃったわけだし」
「やめてほしくない」
反射的にそう呟(つぶや)いていた。
「お店がなくなったら、私、行くとこなくなっちゃう。せっかく立ち直りかけてるのに。あのお店に行くのが、いいリハビリだったのに」
またたったひとりで、失った食欲を探して暗い部屋の中でぼうっと座り込んでいるのは、いやだった。だから必死だった。
「私のために、店を閉めないで。お願い、私が立ち直るまでは『のんある』を営業していて」
「苑花さん......」
大賀が私を見つめて何か言いたそうに口を開けたけれど、言葉を発しないうちに、閉ざした。
再度唇を動かした時には、明るい口調になっており、
「飲もうよ! 僕、オーガニックビールなら、冷蔵庫にあるから!」
と、私を誘ったのだった。
「私、お酒は......」
気持ちがすくんだ。
アルコールはずっと口にしていなかったからだ。
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