特ダネ記者魂

2009年12月08日

巨大な井戸塀事件/「政治とカネ」の話とは異なる偽装献金

[田岡俊次の特ダネ記者魂]

「井戸塀政治家」という言葉が戦前からあった。政治活動に私財を投じたため、屋敷は廃屋と化し、残ったのは井戸と塀、との意味で、清廉な政治家を戯画化した表現だ。戦後にも1957年から岸信介内閣の外相を務め、60年の日米安保条約の改定に尽力した藤山愛一郎氏が「井戸塀の典型」と称された。いわゆる第1次安保条約は占領中に案ができ、51年、講和条約の日に調印しただけに、米軍が日本の内乱を鎮圧したり、日本に無断で日本の基地から他国を攻撃できたりしたうえ、事実上無期限だったが、改定で相当ましになった。当時、「安保改定反対」デモが広がったが、大学1年生の私は「安保条約に反対するならまだ筋が通るが、改定反対は変だ」と議論したものだった。

藤山外相の父、雷太氏は1909年に破綻した大日本製糖の再建に成功し貴族院議員になった財界の重鎮で、藤山外相は莫大な資産を政治に投じ、献金などを受けなかったため、井戸塀ぶりが政界の美談とされた。今回の鳩山由紀夫首相の偽装献金問題はそれに通じるところがある。本人と母親の資産を政治に投じた際、政治資金規正法では、個人の寄付は同一の者に年間150万円以下、候補者が自分の政治団体に寄付する場合も1000万円以下、と制限されているため、他人の名前を使って寄付したものだ。政治家が自分の金を政治団体に出す場合、「貸付金」とするのが一般的で、母親が出した分も貸借契約書を作り、少しでも返済していれば弁明は楽だったろう。会計担当者がなぜそうしなかったのかが不思議なほどだ。

この事件には企業、団体のヤミ献金のような賄賂性がなく、他の「政治とカネ」の話とは本質的に異なる。犯罪には法令がなくても悪い「自然犯」(殺人、窃盗など)と、法令ができてはじめて禁止された「行政犯」(選挙違反など)がある。その境界はあいまいだが、これはかつて藤山外相が称讃されたことを思えば典型的な行政犯だ。今回の事件は偽装の件数が多く、総額も驚くべきものだが、政治史上では巨大井戸塀事件として記憶されることになるかもしれない。

日米安保条約 , 田岡俊次 , 藤山愛一郎

バックナンバー

アエラ最新号

2012年2月13日号

2012年2月13日号

最新号キーワード

食の信念が揺らぐ 銀行窓販保険の魅力と危険 早慶女子「一般職がいい」 女心の複雑 「脱東電」で電気代26%節約 「驚異の儲け」グリーよ どこへ行く 絢香インタビュー 荻原博子の石巻ルポ 今年の花粉症 AKB48「恋愛で脱退」のルールと戦略 

2012年2月13日号
定価:380円(税込)
表紙:松田翔太/俳優

雑誌を購入

デジタル雑誌を購入

から検索
から検索