特ダネ記者魂

2010年09月07日

円高は天の采配/産業構造を変える好機到来

[山田厚史の特ダネ記者魂]

「円高は怖くない。日本の追い風になる」というと多くの人はイヤな顔をする。史上最高値に迫る円相場は日本経済を破壊すると思っている人が多いようだ。

 1985年のプラザ合意の時、私は駆け出しの金融記者だった。1ドル=240円だったが4カ月で200円を突破し、やがて100円を軽々と超えた。95年4月に79円75銭を記録。円の価値は3倍になった。

 日本企業はたいしたもので血の滲むコストカットで1ドル=100円に耐える力を付けた。そして部品産業を引き連れ海外に出て、現地で納得のゆく品質を実現した。技術は移転し中国、インドまで競争に加わった。どこでも作れる製品は労働力が安いところにかなわない。途上国に出来ることは途上国に譲らねばならない。グローバル化の宿命だが手を打たなければ産業の空洞化が進む。

 対策は二つある。一つは非価格競争力をつけること。途上国が及ばない技術や独創性を生かした製品の開発だ。アメリカにはiPhoneやウィンドウズがあり、欧州には服やバッグのブランド品が並ぶ。市場で価格決定権を握れば人件費コストは吸収できる。先進国の製造業が生き残るにはこの道しかない。

 もう一つは産業構造の転換である。輸出産業から内需産業へ軸を移す。身を切りつめて輸出に励む時代から、豊かさを実感する消費社会への移行だ。原動力は起業や新規事業への挑戦だ。

 残念なことに日本企業はこの15年、努力を怠ってきた。不況の中で企業は現状維持に汲々とし経営者はリスクを嫌った。円安に振れた為替相場と日銀の超低金利政策があまりにも心地よく、産業界の安眠装置になっていた。

 産業の主役は時代とともに変わる。農業、石炭、繊維。産業が滅ぶ時、社会は傷み、人生まで狂う。そうやって旧い産業を脱ぎ捨て人々は新しい時代を開いてきた。

 変化に適応して変わるものだけが生きつづけられる、と頭で分かっていても、自らの意思で産業を乗り換えることは至難だ。

 円高は日本に「早く変われ」と迫る神の啓示である。産業界もメディアも政治家も揃って「円高対策」を叫ぶが、流れを止めようとするのは愚の骨頂だ。止められるものでもない。受け入れて自らが変わるしか道はない。苦しい選択だが、ここはあくまで前向きに。時代の方向を間違えてはいけない。

円高 , 対策 , 産業構造の転換

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