朝倉かすみ[ぜんぜんたいへんじゃないです。]

2008年12月01日

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節目

この連載も今回で10回目だ。末尾に0や5がつくと、節目の感覚が起こりがちだ。5回目の原稿を書いたときにはまったくなかった節目感が、今回、わたしのなかで急速にふくらんでいる。

回数が二桁になった事実も大きいと思う。次に桁数が変わるとしたら三桁なのだが、それは、ありえない気がする。電卓で計算してみたところ、連載100回を迎えるためには3年近くの年数を要するのだ。

はっきりいって、この連載がいつまでつづくのか、現段階では未定である。スタート時期は打ち合わせののち決まったが、そのさい、終了時期についての話は出なかった。そのことをたったいま思い出した。

わたしはいつまでこの連載をつづけるのだろう、あるいは、つづけさせてもらえるのだろう、となんとなく考えた。でも、わりとすぐに考えるのをやめた。

なぜなら、「その時期」が、どんなかたちで、いつやってくるのかは分からないが、必ずやってくるのは確かだからだ。その日がくるまで、わたしは1本1本、力いっぱい取り組むのだ、ていうか、それしかできないじゃん、と、だいたいこんなふうの結論ともいえない結論に着地(不時着)したのだった。

いわば、現在進行形の結論というやつだ。大雑把な言い方をすると、こんな結論を胸に抱いて、わたしは日々仕事をしている。だってさあ、ほんとうに分からないんだもの。いつまで仕事があるのか、つづけられるのか、なんてさあ。

そりゃ考えてどうにかなるのなら、こんなわたしでも考えますけど、不安になるだけと思うので、なるべく考えないようにしている。でも考えちゃうけど。そうね、明け方が多いわね。

徹夜をすると、仕事部屋の窓から月の運行がよく見える。晴れた夜空にかぎられるが、ふと目を上げると、月の位置が変わっている。頭のなかで、さっき見た位置と、いま見た位置とを点線でむすぶと、月が美しい弧を描いているのが分かる。月は、東から西へと移動している最中なのだ。

くっきりとしていた輪郭は、朝が近づくにつれ、ぼやけてくる。目を凝らさないと月の位置を捉えられなくなる頃、「......どうなるんだ、わたし」と、つい思う。薄青い空をぼんやりながめながら、見えなくなった月に思いを馳せたりする。

そんなときは、「頭を動かすよりも、からだを動かせ」と幼い時分に母から何度となくいわれた言葉を思い浮かべるようにしている。わたしはなにしろ昭和の子だし、それにインテリではない。この手の言葉がしっくりくる場合もある。四の五のいわずに、とか、そういう言葉もけっこう好きだ。

新人賞を頂戴して5年目となる。しかも結婚して10年目。じつは、今年は、ダブルで節目の年なのだった。

そんな「ダブル節目年」をわたしがいかに過ごしたかというと、特にどうということもなかったとしかいえない。

言い訳をさせてもらえるのなら、今年が「ダブル節目年」だったと気づいたのが、ついさっきだった点が挙げられる。それに、5年目、10年目といっても、実際、その数が満ちているわけではない。来年、晴れて、丸5年、丸10年になるのだ。

こんな細かいことを言い出すほど、無自覚に過ごしてしまった。来年はひと味違うよ、と意気込んでおく。乞うご期待だよ、とフカしてもみよう。根拠は一切ないが、そうなったらいいなあ、とは思っている。

さて、特にどうということもなく過ごした今年だが、それでも小さな変化があるにはあった。

まず、夕食時に出前をとる機会が増えた。

というのは、締め切りを設けられた仕事が増えたからだ。

わたしの肩書はデビュー以来「作家」だ。でも、去年までは締め切りとはあまり関係なく仕事をしていた。お声はかけていただいていたが、ひとまず書いてみて、編集者のオッケーを勝ち取るまで書き直し、そしてめでたく掲載にいたるという経過を辿った。いつ雑誌に載るのか、書いた次点では未定のケースがほとんどだった。「○月号に掲載となります」と連絡を受けて、「あ、ほんとに載るんだ」といつも驚いていた。うれしかった。

現在でも、掲載にいたる経過自体は変わらない。締め切りという期限を設定されたのが大きな違いだ。つまり、○月号に載る、とあらかじめ決まっているケースが増えたわけだ。わたしは決められた期間内に編集者のオッケーをなんとしても勝ち取らなければならない。そうそう呑気にしてはいられないのだ。なのに呑気にしているから、徹夜となったり、夕食の仕度ができなくなるのだった。

我が家が出前をとるのは、おもに蕎麦かピザか寿司だ。蕎麦以外は出前専門店を利用している。

以前から、我が家で出前をとるときには、この三つがローテーションの柱ではあった。しかし、今年になり、名乗るだけで、「いつもありがとうございます」といわれるまでのお得意さんに急成長。主婦としては、なかなか恥ずかしい事態だ。

家を空けることも多くなった。ところが、婚家や実家へあそびにいって、それぞれの親に元気な顔を見せることは少なくなった。

妻として、嫁として、娘として、いかがなものかという状況になりつつある。昨日もおとといもお風呂に入らなかった。ひととしても、いかがなものか。だからといって作家として格段の実力がついたわけでもなく、「......どうなるんだ、わたし」と明け方につぶやきたくなるが、でも、ぜんぜんたいへんじゃないです。いや、ほんとに。祝・連載10回。書いたものが掲載されるのは、とてもうれしい。

kasumi asakura , 朝倉かすみ

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