朝倉かすみ[ぜんぜんたいへんじゃないです。]

2009年09月20日

問題点その2

並行。それは、大辞林によると「物事が同時に並び行われること」である。わたしができないことである。

Aという小説を書きながら、Bという小説が書けない。もちろんCというエッセイも書けない。

当然だろう、からだはひとつなんだから、ふたつもみっつも同時に書けるわけがない、と思われるかもしれないが、わたしのいいたいのはそうではなくて、Aを3時間書いたあと、Bを3時間書き、そしてCを3時間書く、というやり方ができないということなのだ。

読書でいうと、通勤電車でAを読み、お茶の時間にBを読み、夜はベッドでCを読むということができない、のと同じだと思う。一度読み始めたら、最後まで読んでしまわないと「次」にいけないタイプはけっこう多いのではないかな。

恋愛にたとえたら、Aとデイトしたあと、Bと会い、Cと会う、に等しいと思う。だれかと真剣にお付き合いしたいと考えるひとは、このようなデイト形態をとらないはずだ。よしんば意中の人物が3人いて、3人とも自分に気があったとしても同じこと。たこ足配線のような真似はせず、Aとの関係を清算してからB、しかるのちCと交際しようとするのではないか。わたしならそうする。わたしは本来そういう人間なのだ。

だが、納得ずくで「たこ足配線」をする場合がある。なんならA、B、C三者と同じ日にデイトの約束をしてしまう可能性だってある。なぜなら、わたしはデイトに誘われたらほとんど断らない人間だからだ。

わずか4行前の発言とあっさり矛盾して済まない。だが、一度断ったら二度とお声がかからないのでは、という薄い不安がわたしをデイトへと駆り立てるのだった。しかもわたしを誘ってくれるのは、憎からず思っていた相手ばかりなのだ。

それぞれと真剣にお付き合いしたい気持ちは変わらないが、平成不況の世の中である。交際相手は多いほうがなにかと心強い。それに、だれかと付き合うときのわたしはいつも真剣だ。真剣交際。たこ足配線であったとしても、って、ああ、もう、面倒だから、持ってまわった書き方はやめよう。

出版社から声をかけてもらったら、わたしはほとんど断らない、って、でも、こう書くと原稿注文が殺到しているみたいで、鼻持ちならないんだよなあ。そうしてその殺到している注文を「ほとんど断らない」とかいうあたり、謙虚とかやる気をアピールしているようで、なんかやだ。

断っておくが、わたしが頂戴している注文数は、客観的に見ると、「殺到」といえるほどではない。とはいえ、わたしの実績----書いたものの質や売れ行き----に比べたら、少しばかり多いと思う。だからこそ、ありがたいのだ。

編集者だって、やっぱりモンスターみたいに売れる(読者に支持される)作家の原稿が欲しいに決まっているもの。あるいは、名作レベルの作品を書ける作家の原稿。極端にいうとね。私見ですが。

わたしはそのどちらでもない。卑下しているわけでも僻んでいるわけでもなくて、ただ、「そのどちらでもない」ゾーンに入っている作家のひとりだというだけだ。しかもまだ新人だ。

つまり、わたしは、「いつかいいものを書くだろう」「いつか売れるだろう」という期待込みで注文をいただいているのだ。もちろん、ここぞというところで物事を都合よく解釈するわたしのことだから、ほんとうは「(アサクラは)もっともっといいものが書ける」「(アサクラが)売れないのはおかしい」くらいの勢いで見込まれているはず! と思っているのだが、それはさておき、わたしが現在「買いかぶられ中」の状況にあることを理解していただきたい。

押し寄せてきた津波に飲み込まれそうになるほどの注文数ではないのに、あっぷあっぷしているのは、たぶん、わたしがかれらの期待にこたえたいと思っているからだ。

いや、ほんとうのところ、わたしはいままでだれかに期待された経験がないので、期待されるということがどういうことなのか分からない。だから、どうこたえたらいいのかも分からない。

でも、「いいものを書くだろう」と思ってもらえたなら、「(あなたが思う「いいもの」以上の「いいもの」を)書きたいとは思う。「いいもの」という言い方はざっくりしすぎていてとらえどころがないのだが、わたしとしては、ひとまずは、自分が気持ちわるいと感じる書き方はしないようにしている。

夜、眠りにつくときに、その夜のベストポジションをあれこれ探るようなものだ。安眠できる体勢を探しあぐねて眠れない夜もある。このあいだ寝たときは、この体勢がしっくりきたのになあ、と思ってためしてみても、ぜんぜんフィットしないから困ってしまう。できれば、ほんのちょっとでもいいから新しい体勢を見つけたい。

作業を並行して進められない、のは、切り替えが遅いからだ。並行どころか、ひとつ終わって、次に取りかかるまで、若干の時間を要する。「このあいだ寝たときの体勢」が残るのだ。歯がゆいったらありゃしない。

朝倉かすみ

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