2008年09月07日

「連れプー」やめてポニョよ、泳ごう

男2人の「脱力まったり」

編集部 伊東武彦/ライター朴 順梨

この夏は、よく泳いだ。
夏休みはプールざんまい。出勤日も、朝9時から区民プールで1000メートル、ガーッと泳いで、会社に向かう。
出張で新幹線に乗る度に苦しんでいた腰痛が消えた。気分もすがすがしい。
家族連れでにぎわう週末は、プールは芋洗い状態なので、ロープで仕切られた「完泳専用コース」をひたすら往復した。ある時、ターンしようとすると、コースの端に男性が2人。泳ぎもせず、おしゃべりしながら水につかってるだけだ。
邪魔なんですけど。
一人は細身。腕も細くて、お腹だけが「ポニョ」。もう一人は明らかにメタボ。30歳前後だろうか。水着は迷彩色のトランクス型で、海岸に向かう店とかで、1000円くらいで売ってるヤツだ。
近づいて耳をそばだてた。
「野口にはガッカリだよねえ」
「陸連の管理の問題だよ。土佐もねえ、あれは辞退するべきですよ」
折しも北京五輪の最中。女子マラソンで金メダル有力と言われた野口みずきが、レース前に辞退。土佐礼子も、途中リタイアしたばかりだったが......。

◆立ったまま北島のまね

見渡すと、けっこういるのだ、オトコ2人の「連れプール」。
しゃべりながらウオーキングしているコンビ。一人はかなり太めで、「SPEEDO」のロゴが、横に引っ張られてるのがイタい。少し後で見ると、「連れプー」の2人はビート板を使ってプーカプカと浮いていた。
憑かれたように泳いでいる男性は、みんな一人だ。この夏、週に1回はプールに通った都内の27歳のカメラマンが言う。
「泳ぎは一人の世界。誰かと一緒に行こうとは思いませんね」
昨年、体力をつけようと、自宅から近い目黒区民センターのプールへ。行きはクロール、帰りは平泳ぎ。最初は300メートルで息切れしていたのに、今では1500は泳ぐ。
気分は北島康介。隣はライバルの米国人ハンセンか、ノルウェーの新鋭ダーレオーエンか。
「隣の人に抜かれると、すごく悔しくて。むきになって抜き返したりして」
こういう人は健康的な「プール族」だが、北島といえば港区内の50メートルプールでは、こんな2人連れも目撃した。
「北島は水の抵抗を考えて、こう掻いてるんだよ。彼の泳法は四輪駆動なの。そう、そう」
思い切りメタボの30代らしき男性が、20代の、えなりかずき似の短髪男性に身ぶり手ぶりで教えている。えなりは言葉通りに掻くしぐさ。が、なぜか、いつまでも立ったままだ。
それじゃ四輪じゃなくて「二輪駆動」だって。
確かに、水の中は気持ちいい。区民プールなら安いし。でも、泳ぎもせず、ナンパ目的でもなさそうな彼らって......。

◆ダラダラして午後2時

都内の学習塾に勤める43歳の男性も「連れプー」にはまっている。相手は塾の元生徒で、36歳の会社員。ともに独身。毎年初詣でも一緒に行く。身長180センチ、体重130キロの巨漢と、スポーツジム通いが趣味の筋肉マンというコンビだ。 お気に入りのプールは、立川市の国営昭和記念公園。入場料は2200円と高めだが、流れるプールも波のプールもあって、一日楽しめる。
会話はこんな感じ。
「最近また太りましてねえ〜」
「あ、あそこの人妻きれいですよ!黒木瞳みたい!」
「でも歯が出てるので、ナシじゃないですか」
2人とも比較的平日に休みが取りやすい職種のため、予定を合わせられる。女性の好みも似ていて、話が合う。同僚の女性を誘ったこともあるが、ノーメークで水着になるのが恥ずかしいらしい。まして恋人でもない男性と一緒なんて......。というわけでオトコ2人だ。
都内の会社員(28)は、7月に同い年の男性2人と「としまえん」へ。同業種で働く3人で、休みを合わせた。
午前中集合だったが、2人が遅刻して、駅に着いたのが昼過ぎ。駅前の中華料理店でビールを飲んでいたら、もう2時。
「さあ、焼くぞ」
と水着に着替えた直後に、厚い雲が広がってきた。

◆男2人で「ポニョ」

3人のうち、彼だけ恋人がいない。結局、普段飲みに行っている時のように、他の2人からいじられて帰ってきた。
「メタボ解消と日焼けという自分磨きに行ったのですが......」
おいおい、それって自分磨きか。「旅人」に笑われるぞ。
神奈川県に住む29歳のフリーターの男性は、高校の同級生とこの夏3回、市営プールに行った。同級生は失業中。9月末からIT関係の会社で派遣で働く予定だ。 2カ月前に知り合った、同い年の彼女はいる。それでもオトコ2人でプールに行く理由は、一言「気楽だから」。
まず、水着姿の女性と一緒だと目のやり場に困る。また彼女と他の女性を比較してしまう。それに女性が一緒だと格好つけて、泳がなくてはならない。クロール25メートルがやっとなので、けっこうしんどい。
「湘南も近いけど、砂がつくしクラゲもいる。300円で2時間はネットカフェより安い。高校の時の思い出話をしたりして。あの頃は良かったなあ、なんて」
8月末は一緒に映画を観に行くことになった。日航機事故を扱った「クライマーズ・ハイ」という案もあったが、テーマが重いということで、結局観たのは、宮崎駿監督のアニメ「崖の上のポニョ」。

◆男2人のまったり

オトコ2人って、確かに気楽なのだろう。29歳の会社員は、こう話した。
「飲みは、断然オトコ2人ですよ。大学の同級生なら愚痴もこぼせるし、気が乗らなければ『じゃあ、帰るわ』って言える。2人で1週間、北海道をドライブしたこともあります。眠ければ寝られるし、楽ですよ」
都内の34歳の会社員は、10年来の友人と、ダムや廃墟に出かける。理由は、 「大きいし、退廃的だから」
座礁船や発電所にも足を運んだ。
でもなんでオトコ2人で?
「あくまでB級企画ですから。女性がいると、どうしても退屈させないように計画を立てるでしょ。独身男性同士だと、お金も時間も合わせやすいし」
計画自体が外れだったとしてもへそを曲げられるわけでもないし、とりとめのない会話をしていたって怒られない。
男女関係に求められる一定の生産性や実効性が、まるでない行動。オトコ同士なら、それが許されるのだ。その分、緊張感には欠けるが。
この夏、映画も公開された長嶋有の小説「ジャージの二人」は軽井沢で避暑をする父と子の話だが、2人で何をすることもなくジャージを着て過ごすまったり加減は、とても近い。
小声で告白すると、私もオトコ2人でまったりカラオケに行く。相手は高校時代の同級生。飲んだ後、カラオケボックスでチューリップやかぐや姫。生きてきた時代が同じだから持ち歌も合う。かぶせて歌っても、反則じゃない。
締めは必ず佐野元春の「SOMEDAY」。2人とも2番の歌詞が好みだ。「口笛吹いて強がってても、一人じゃいられなくなる」って内容。この前の時はお前が2番を歌ったから、今度はオレな----なんて。
でもさ、若者は、区民プールでの「連れプー」やめて、海に出ようよ。
やっぱり邪魔だから。

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