2008年09月16日

角界と美空ひばりの母

身内しか信用しない教会と北の湖

編集部 小北清人


「夏が来ーれば思い出す」というわけでもないが、大相撲と言えば「美空ひばり」一家を思い出す。身内の組織暴力団との関係などで叩かれつつも、根強い人気は衰えなかった。

すごかったのはひばりのマネジャー、母親の加藤喜美枝さんだ。自宅台所の床下に隠したヘソクリをお抱え運転手に盗まれたが、その額3500万円。彼女は銀行を信じなかった。「信じるのは身内だけ」だった。

皇室も観戦に訪れる「日本の国技」大相撲。師匠が弟子を丁稚奉公のようにゼロから鍛え上げる徒弟制、大家族的な部屋制度、体罰当たり前の厳しい稽古と、戦後捨て去られた「古い日本」をいまに残す職人社会だ。

◆答える必要はない

「とにかく、相撲協会はよその世界の人に余計なことを言われたくない。身内意識が強く、世間からわからず屋といわれても耳を貸さない傾向がある」

と話すのは角界取材が長い相撲ジャーナリスト中沢潔氏だ。「それにしても、北の湖さんほど外部の声に耳を傾けない理事長は珍しかった」

3年前、貴乃花親方が角界改革をテレビでぶち、協会から厳重注意とテレビ出演自粛命令を受けた。中沢氏は北の湖理事長に「若い親方の声も聞いてみる必要があるのでは」と尋ねた。すると理事長は、

「あんたなんかの、そういう話に答える必要はない」

と取材拒否。間もなく人を介して理事長室への出入り禁止を言い渡してきた。親方仲間の間では評判がいいという。だが気に入らない取材は受けようとしない、内弁慶な理事長だった。

トップに発信能力が不可欠なこの時代、内輪にしか通じない発言に終始した彼が辞任に追い込まれたのも仕方あるまい。

「頭の中ではいまも横綱のつもり。弟子の白露山が大麻吸引を否定すると、自分としては信じるしかないとまで言った。結果として弟子にウソをつかれたわけで、これではバカ親と同じ」

格闘技の著書も多い松原隆一郎東大大学院教授は怒る。

「その道を極めるには社会常識がない方がいいかもしれない。でも親方になるなら一般社会を知る教育を受けるべきだ」

大麻所持でロシア人力士・若ノ鵬が警視庁に逮捕、解雇されたことを受けた抜き打ち検査で、同じロシア人の露鵬と白露山の兄弟にも陽性反応が出て8日解雇された今回の一件。彼らは日本での大麻吸引の重さをどこまで認識していたのか。欧州では、少量の大麻は罰金刑で終わるケースが多い。

◆部屋増え余裕なくなる

現在、外国人力士は12カ国から約60人、うち約4割の20人ほどが十両以上の関取で実力、人気とも角界を支える。だがこれだけ増えても角界のルールがきちんと教えられていないのが実情だ。前述の松原教授は、

「日本人同士での感覚は外国人には通じない。入門時に契約書を作るくらいの方策が必要だ」

深刻なのは、肝心の部屋制度が根腐れつつあることだ。

「昔は部屋の数も少なく分家も容易に許されなかった。だが大卒力士が増えるにつれ、母校の人脈を使って独立し部屋を持つようになった。部屋制度の民主化の半面、部屋が多くなり、規模も小さくなり部屋の親方の数も足りず、生活面など指導する余裕がなくなった」(中沢氏)

700人を超す力士たちがバイトもせずに生活できる世界最大の格闘技団体、大相撲。「信じるのは身内だけ」ではもはや立ち行かないのは今回の騒ぎで証明された。納得行く改革をファンは待っている。

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