2009年06月28日

「時間地価」で割安駅を探す

通勤時間から住宅地を再評価

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編集部 山下 努 写真 今 祥雄


◆「地名隠し」マンション

ルネプライディア、オーベルグランディオベイフロント、キャナルワーフタワーズ、ダブルコンフォートタワーズ、ニュートンプレイス......。東京都江東区豊洲一帯に、1990年代末から2005年にかけて次々と建てられた、地名を謳わないカタカナ名のマンションの実例だ。

東京フロントコート、プライヴブルー東京、東京ベイ・リベロシティ......。漠然と「東京」とだけ名乗る物件も多かった。

こうした「地名不詳物件」は当時、豊洲だけでなく江東区全体で増えた。

02年ごろ、朝日新聞の不動産担当記者をしていた私は、現地の物件を訪ねた。業者は、

「造船所と倉庫ぐらいしかない豊洲はイメージが三流でね」

「名前に豊洲を冠したら売れなくなるよ」

などと言うではないか。

そんな豊洲界隈の某「東京物件」の宣伝に、女優の松雪泰子が起用された。業者がライバルと想定したのは、人気も地価も高い世田谷区など山の手の住宅地。「いつかは世田谷に戸建てを」と夢見るサラリーマンは、折しもITバブル崩壊後で、リストラ、成果主義、年俸制の波にさらされており、地価の安い下町からの誘惑になびいた。実際、モデルルームを訪ねれば、

「物件の坪単価は150万円台からと世田谷の半値近くで買え、通勤時間も半分になりますよ」

という殺し文句を聞かされる。確かに、地下鉄で銀座一丁目駅まで数分で行けるのは魅力だ。マンション業者の「豊洲隠し」作戦はまんまと当たった。

◆黒木瞳、マドンナも登場

住宅地の価値をブランドではなく通勤時間の短さで評価する。そんな「時間地価」の割安感をPRする物件は、豊洲のほかにも品川、日本橋など湾岸地域や下町に集中していた。

そのころの日本経済といえば、株や土地などの含み損を許さない時価重視の会計革命、銀行・ゼネコン破綻など悪条件が重なって地価は暴落。一方、含み益を抱えた企業は、倉庫や工場、工場跡地、遊休地を安値で吐き出して決算を乗り切ろうとしていた。小泉政権による「地価の構造改革」も背中を押した。建物の高さ制限などが緩和され、タワーマンションなどの大規模開発が促進されたのだ。

ここに外資を含むマネーが流れ込み、06年ごろから都心の地価は「ミニバブル」に沸く。豊洲では、豊洲タワーなど地名を前面に打ち出す物件が次々と登場し、物件によっては坪単価が300万円に迫った。広告には女優の黒木瞳、プロ野球の新庄剛志が、隣町の物件ではついにマドンナも登場した。

◆「時間地価」マップ

首都圏の主要駅からターミナル駅までの所要時間と、主要駅周辺の住宅地の直近1年の取引価格には、どのような相関関係があるのか。不動産情報の東京カンテイとアエラ編集部は、200駅を対象に「時間地価」マップを作成した----。

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