2010年03月19日

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母としてのSEX 夫としてのSEX

嫌いになったわけではないけど…

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編集部 長谷川拓美 イラスト 深津千鶴


ガランとした部屋だった。パイプ椅子を引いて座ると、目の前に時計が置かれた。秒針の音が響いた。

「今からの1時間が、あなたの相談時間になります」

ユミさん(37)は4年前、市の女性相談に行った。「無料。困ったら何でも相談してください」。ネットで見つけたサイトの言葉にすがった。

「離婚は考えていないんです。でも、理屈抜きで夫のことが嫌になってしまって......」

言葉を選んで言った。すぐに返ってきた。

「夫婦にはよくあることです」

欲しかったのは、そんな言葉じゃない。

──夫とのセックスが苦痛です。どうすればいいんでしょうか──

吐き出したかった。でも、初対面の人には言えなかった。

二つ上の夫とは大学3年のときに知り合った。177センチの長身で爽やか。友人たちからも羨ましがられた。3年付き合って結婚した。

夫とのセックスは最初、すごく気持ちがよかった。細身なのに筋肉質。ちょっと汗ばんだ夫の皮膚が、自分のものと絡み合う。イクときに目をつむる夫の、まぶたが少し震える感じも好きだった。信頼する男の腕の中で、身も心も解放された。

結婚して2年後、妊娠した。嬉しかったのに、電車から見える景色や壁の落書き、雑踏......。つわりで苦しんだ時期、世の中のものが汚く見えた。性の情報にも敏感になった。電車の中吊りに女性の水着写真があると、目を逸らした。

妊娠中でも夫は求めてきた。

「お腹の子どもが、びっくりしちゃうじゃない」

作り笑いをしながらやんわり断った。夫は渋々納得した。妊娠中、一度もセックスはしなかった。

男の子を産んだ。愛おしさと危うさ。息子から目が離せない。乳首を一生懸命吸う唇を見て、自分の中の母性を感じた。

──おっぱいは夫のためじゃなくて、息子のためにある──

確信した。徐々に夫に触れられるのが億劫になった。

母になった途端、セックスに対する欲望がなくなる女性は少なくない。女としてよりも母としての本能が勝るのか。物理的に育児疲れで、それどころではなくなるのかーー。

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