2010年04月18日

不器用世代が願う「新・寿退社」

仕事と家庭は両立できない

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編集部 小林明子、木村恵子、諏訪満里子 写真 品田裕美


焼きたてパンの甘い香りが満ちた部屋に、ドアホンが響く。

「おかえり」

夫の表情がふっと和む。今日も穏やかに迎えることができた。

30歳で専業主婦になって1年が経った。朝、大手メーカー研究職の夫(31)を送り出すと、読書をしたり、ケーキを焼いたり。パンは一日おきに作る。テレビはつけない。こんな緩やかな生活、以前は考えられなかった。就職超氷河期の2001年に新卒で外資系金融会社に入社した。億単位の為替取引がおもしろくて夜中も市場から目が離せなかった。

結婚しても仕事のペースは落とさなかった。いつクビになるかわからない不安とも背中合わせだった。大きな取引をしても、目の前に確かなものは何もない。やり甲斐のあった仕事が「虚業」に思えてきた。

「こうしている間に、お金では買えないものを失っていくんじゃないだろうか」

家庭を犠牲にしない程度に働こうと、派遣の事務職に変わった。書類はこうしたほうが効率的かも──。気づいたら仕事を家に持ち帰っていた。

「仕事も家庭も、やるからにはちゃんとしたい。私が一番にやるべきなのは、家庭をつくり直すことだと気づきました」

3カ月で派遣もやめた。今は終電で帰宅した夫の表情も読み取れる。疲れているなと感じたら夕食はあっさりめの味付けにしたり、お粥を出したり。週末はわざわざレジャーに遠出しなくても、買い物帰りに二人で近所の公園を散歩するだけで満ち足りる。

「キャリアやお金がいくらあっても人生の最後には残らない。せっかく得られた夫婦の絆を失うことのほうが怖い」

もう二度と働きたいとは思わない−−。

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