2010年07月04日

「中国スト」を先導した男

「世界の工場」労働者の変容

20100712_s_1.jpg
ジャーナリスト 陳言(北京) 編集部 木村恵子


 5月17日午前7時50分、李明(仮名、24)は「緊急停止ボタン」を押した。たちまち工場内にアラームが響き、生産ラインは停止した。広東省仏山にあるホンダの部品工場「本田汽車零部件製造有限公司」。断続的に1カ月以上続くストライキ騒動の始まりだった。

 湖南省生まれの李は、同郷の数人の同僚に呼びかけた。

「給料が安すぎると思わないか。もう生産を止めよう」

 総経理が通訳を通じて要望があれば話し合いを、と呼びかけたが、李は応じなかった。ひたすら携帯からショートメールを知人に送った。自分の工場の生産が止まれば、中国国内にあるホンダの組み立て工場もまもなく生産停止にせざるを得ない。そのときに一緒に賃上げを要求しよう──そう呼びかけた。

 昼休みに食堂に行くと、6枚のホワイトボードがあった。要望があったら書いてほしいと言われた。あっという間に100本以上の書き込みで埋まった。会社側からは「5月21日に回答する」。その答えを見て、李らはいったんラインに戻った。

 組み立て、鋳造、歯車など五つの職場から選出された10人がホンダ側に要求したのは800元(約1万円)の賃上げ。労働者の月収は1千〜1300元(約1万3千〜1万7千円)。だが、回答期限の21日にホンダが発表した上乗せ額は、120〜155元(約1600〜2千円)だった。

 再び不満が爆発した。李が再び生産停止を呼びかけると、今度は運動場に300人が集まった。22日昼前、工場内に李と生産停止を呼びかけたもう一人を就業規則違反で除名するという放送が流れた。午後、李は2年半勤めた工場を後にした。

 李と話をすると、意外なほど声が細く自信なさげだった。

「解雇は後悔していない。残った人が賃上げを実現できればいい。ただ、送金できなくなり、親には申し訳なく思っている」

バックナンバー

アエラ最新号

2012年2月13日号

2012年2月13日号

最新号キーワード

食の信念が揺らぐ 銀行窓販保険の魅力と危険 早慶女子「一般職がいい」 女心の複雑 「脱東電」で電気代26%節約 「驚異の儲け」グリーよ どこへ行く 絢香インタビュー 荻原博子の石巻ルポ 今年の花粉症 AKB48「恋愛で脱退」のルールと戦略 

2012年2月13日号
定価:380円(税込)
表紙:松田翔太/俳優

雑誌を購入

デジタル雑誌を購入

から検索
から検索