おでんの季節がやってきました、の巻。 　おでんの季節がやってきました。
　おでんを煮るとき、いつも途中でお鍋をワンサイズ大きいのに取り替えることになるのは何故か。それは材料を買いすぎるからであります。ひとパックずつでも、四種もあればすごい量になってしまう。我が家は三人家族（うちひとりは四歳）なのに。
「ちょっと食べたいね」というのがたいていの発端なのですが、絶対「ちょっと」とはなりません。
　でも一方で、けちってはおいしいおでんにならないような気がするのです。たっぷり作るのがおいしくなるコツだと信じている。
　おでんに欠かせないのはまず大根。少なくとも一本の三分の二は使います。４センチほどの厚めに切って、隠し包丁を十字に入れる。ひたひたの水に入れて弱火にかけます。昆布と干し椎茸もぽいぽい入れる。根っこの野菜は弱火でゆっくり火を通すとうまくなる、と何かで読んでから、大根を炊くときはもう絶対、やさしい火でじっくりゆったり煮ることにしているのです。焦ってはいけない。
　昆布が曲がるようになったら、いったん引き上げてきゅっきゅと結んでいきます。椎茸も、軸の堅いところをぱちんと切る。で、また鍋に戻ってもらおう。
　三角に切って表面に細かく包丁を入れたこんにゃくを、別鍋でさっと茹でこぼす。それからがんも、厚揚げ、さつま揚げ、イカ天ごぼ天も油抜きします。四つほど卵も茹でる。はんぺんを三角に切る。ちくわは斜めに二等分。
　下ごしらえをするのは嫌いじゃありません。ひとつひとつ丁寧に仕事をすると、よりおいしくなる気がするからね。出汁も濁りにくくなりますし。
　徐々に具を足しながら、味を整えながら、煮ていきます。練りもの系は煮るとぶわんと膨らむのが面白いね。鍋の表面近くに浮いてくるから、時々お玉やヘラで沈めるの。
　このタイミングでお鍋が窮屈になるので、ひと回り大きいのに変えることが多い。練りもの軍団であふれそうになるんですよね、いつも。
「くるしい満腹、の巻」でも書いたけれど、食べる前ってどうして未来が見えないのかなあ、オレよ。

　みなさんは、おでんの出汁、何でとりますか？
　私はその時々の気分で変わります。トリ手羽元のときもあるし、鰹昆布のときもある。もちろん両方入れることも。
　うちの夫のおかんは必ずイカを入れると言います。たしかに良く煮込んだイカからはいい出汁が出る。「おばあちゃんのおでんは世界一おいしい」と、ふうたろう（娘、仮称）が言うのも納得。
　ちょっと高級になりますが、タコもおいしいよねえ。ほろほろになるまで煮込んだイカタコは、家族の目を他にそらせているスキに、まんまと私がいただくのです。
　高級出汁で思い出しましたが、以前、銀座でおでんを食べたことがありました。そのお店は、醤油の色がほとんどない透き通った麦わら色の出汁。あれは何でとっていたのかな。すーっと体に染み渡る、きれいな色彩が印象に残っています。
　そこでは何を食べても感動しましたが、つみれについては、こんなにおいしいものがあっていいのでしょうかというくらいにびっくりした。練り物じゃないんだよ。魚をたたいて作った、ほろりとほどけるつみれ。使われているのは鯵など青魚のはずなのに臭みは全くなく、かわりに柚子がふわっと香りました。
　豆腐もおいしかったですね。一丁の半分くらいと大きくて、器の中でふるふると揺れて。ちっとも煮くずれていないのに出汁はしっかりしみていて、上にこんもり盛られた白ネギの小口切りがしゃきっと香り高かった。プロってすごい。
　カウンター席で、大きな四角いおでん鍋をのぞきながら注文するのは本当に幸せだったなあ。しゅっと背筋を伸ばして食べる、料理屋さんの味。本来はカジュアルな食べもの。屋台料理、家庭料理のはずなのに、ここのおでんは華やいだ雰囲気があった。いかにも銀座らしいお店だなあと思ったものです。
　あれは完璧に、ハレの日のおでんだね。
　ちなみにおみやげも可能で、アルマイト製のフタつき、コッヘルのようなお鍋が用意されていて、超豪華です。その昔風邪で寝込んでいた頃、友人がお見舞いに突然これを持ってきてくれて嬉し涙にくれました。

　今回も、話はどんどん飛ぶわけですが、私にとって「おでん」といえばもう一つ、アニメ『おでんくん』を忘れてはいけません。私はこの作品で主人公（もちきんちゃくの少年）の声を務めていたのですが、テレビの放送が終了してからというもの、ご一緒していた声優仲間のみなさんに会えなくてさみしい思いをしているのです。
　だいこん先生の八奈見乗児さん、ウインナーくんの佐々木望さん、たまごちゃんの千葉千恵巳さん、ジャガーのピエール滝さん、ガングロたまごちゃんの小日向しえさん......。みんなどうしているかなあ。声優が本業の方たちは、別のアニメなどでその声を聞くと、きゅんとします。
　アフレコのときはしばしばスタジオにおでんの差し入れがあって、みんなではふはふ食べたっけ。箱根に親睦旅行も行ったなあ。露天風呂で泳いだなあ。
　放送は終わったとはいえ、もしもの復活の時のために、おでんくんの声を忘れないよう家の中で時々しゃべって歌っているのですが、声を張っていないと出せないのが難点。「でんがらがったーでんがーでんがー！」とかって、うるさいんですよね。娘はたいそう喜んでくれますが。
　同窓会とかあったらいいのにな。

　おお。いい香りが漂ってきました。窓ガラスがちょっと湯気で曇りだした。
　そろそろ私のおでんが出来上がりです。
　大鍋ごとどんとテーブルに置いて食べましょう。まずは何からとりますか？