身ぐるみはいで逆らえば逮捕・勾留／破産させ回収するＲＣＣは正義か

AERA-netトップ
アエラを読む（連載コラム）
特ダネ記者魂
身ぐるみはいで逆らえば逮捕・勾留／破産させ回収するＲＣＣは正義か

2008年11月04日

身ぐるみはいで逆らえば逮捕・勾留／破産させ回収するＲＣＣは正義か

［山田厚史の特ダネ記者魂］

「ちょっと事情を聴きたい」と呼ばれ、警察署に出向くと夕方にまさかの逮捕。彼は頭の中が真っ白になった。容疑は「強制執行妨害」。満期になった投資信託の残金を妻の口座に移したことが財産隠匿とされた。

家業の旅館が借金を抱えていた。私財を売って6億円返済したが、銀行は残債32億円を整理回収機構(RCC)に売却。32億円の権利をいくらで買い取ったかRCCは明らかにしない。相場に照らせば「2億~3億円」と見られるが、担保の旅館は約5億円で売却された。それでも借金取り立ての手は緩めず、彼は破産に追い込まれた。

5300万円を妻の口座に移したのは3年前だ。自宅や貸しビルを手放し、先々が不安だった。2人の子供は小中学生。旅館は競売の手続きが進み、身ぐるみはがされる思いだった。少しくらい手元に残しても、と考えたことが「悪質な犯罪」とされ、起訴後も保釈されず拘置所暮らしは2カ月になる。妻も共犯者として逮捕された。

「なぜ私たちがこんな目に遭うのか」と、彼は「不公平」をかみしめる。バブル崩壊で多数の企業が傷を負った。ゼネコンやスーパーなどの大手は債権放棄でよみがえり、銀行は公的資金で生き延びた。大半の経営者は刑事責任を問われていない。

中小企業の経営者は連帯保証で無限の責任を負わされる。旅館を取られただけでなく子供に残すカネさえ逮捕容疑にされ、犯罪者として公表され、さらし者になる。RCCや司法のやり方は、「弱い者は初めから悪者扱い」のように思えた。破産が決まるとRCC職員が旅館に乗り込んできた。しゃぶしゃぶを食べ酒を飲み、支払いは「格安料金」を求めた。破産の審尋では裁判官ではない地裁所長が同席して尋問を仕切った。このあたりのいきさつは(講談社)が詳しい。苛烈で不可解な債権回収を書いた力作だ。

彼のケースは「不都合な真実を明かされた逆切れ」と弁護士の椎名はみる。見せしめのような厳罰を科した、公権力の節度と在り方が問われている。

山田厚史 , 整理回収機構